採用手法はどう選ぶべき?採用市場と学生の志向の変化から読み解くこれからの新卒採用

「ベンチマークしている企業の取り組みを真似したのに効果が出ない」
「今までのやり方を変えないといけないのはわかるが、一体どうすれば…」

社会全体の変化の速度が上がっている中で、採用手法や求職者の志向の変化も以前よりも速まっています。採用に変化が求められているのは間違いないものの、何から手を付けるべきかわからない、新しいやり方で成果を出す方法がわからない、そんな悩みを抱える採用担当者は増えています。

では、市場や学生の変化に、企業はどう対応していけばいいのでしょうか?その答えの糸口になるのが、2019年5月「ヒューマンキャピタル 2019」で開催された講演です。市場のトレンドと、企業に求められている対応について、講演内容をお届けします。

<登壇者紹介>

株式会社i-plug 代表取締役CEO
中野 智哉

2001年中京大学経営学部経営学科卒業。2012年グロービス経営大学院大学経営研究科経営専攻修了(MBA)。株式会社インテリジェンスで10年間求人広告市場で法人営業を経験。
また新卒採用面接や新人営業研修など人材採用・教育に関わる業務を経て、2012年4月18日に株式会社i-plugを設立。「我が子が使うサービスを創造する」を合い言葉に就職活動の問題解決に取り組む。

株式会社ワンキャリア 経営企画室 PR Director
寺口 浩大

1988年、兵庫県生まれ。京都大学卒業。リーマンショック直後、三井住友銀行に入行。企業再生、M&A関連の業務に従事したのち、デロイトで人材育成支援に携わる。
現在、株式会社ワンキャリアで経営企画・採用を行う。メディアでのコラム連載やイベント登壇、TV出演などで採用やキャリアに関するオピニオンを発している。#就活をもっと自由に #ES公開中などソーシャルムーブメントも多数仕掛ける。

スケジュールの前倒し、「適職」より「適職場」
―新卒採用市場で起こっている変化

中野 智哉(以下、中野):この講演では「新卒採用はどのように変化しているのか、その上で企業はどのように採用手法を選んでいけばいいのか」というお話をしたいと思います。

本題に入る前に、まずは採用市場の動向の変化をいくつかのデータを使って紹介していきたいと思います。

まずは「就活の前倒し化」について。就活生の内定獲得時期は、リクルート、マイナビ、キャリタス、どのデータを見ても早まっています。

当然ですが、企業側の選考時期も前倒し傾向です。OfferBoxのデータでも、メッセージを送り始める時期や実際に学生さんに接触するタイミングが、毎年2週間ずつくらい早まっています。

スケジュール前倒しの背景にあるのが、人材不足、売り手市場という環境です。学生さんのプレエントリーの数は減っているにも関わらず、内定保有社は増加傾向にあります。

プレエントリーが少なくても早い時期に複数社からの内定を獲得し、就活市場から退出してしまう。だからこそ全体的にスケジュールを前倒しにして、早期接触を図らなくてはいけなくなっているのでしょう。

では企業は具体的に何をしているのかというと、今やはり一番多いのがインターンシップです。中でも1Dayインターンのような軽い接触ではなく、充実した内容のインターンを開催し、濃い接点を持とうとしています。次に多いのが大学内でのセミナーや自社セミナーです。

いずれにせよ、学生に「会える」施策に重点が置かれています。できればインターンで社内やそこで働く人の雰囲気を感じてもらう、それが難しくても、セミナーなどで一部の社員や人事に接してみてもらう。そういった施策に重点を置く企業が増えています。

というのも、学生さんの傾向として、「社内の雰囲気」を元に会社を選ぶようになってきているんですね。

私は「“適職”より ”適職場”」と表現しているのですが、会社の雰囲気が自分に合いそうか、そこで働けそうか、というのを見ています。さらにそれをどこで判断しているかというと、一番の情報源は、「そこで働いている人」です。

早い段階で学生に「自社の人」との接点を持ってもらい、雰囲気を感じてもらわなくてはいけません。

もう一つ、理解しておきたい大きなトレンドが、採用方法や時期の多様化です。現状の新卒一括採用だけではなく、通年採用がもっと一般的になっていくのではないかと言われています。通年採用というと、「大学1~2年生の時期から接触するの?」と勘違いされる方も多い。

しかし実際は、高度人材やIT人材は、4年間や大学院まで行ってしっかり勉強して卒業してから採用しましょう、という意味合いで使われています。専門性の高い人材については「総合職×一括採用」ではなく、専門性を生かせる職種に、既卒でも就職しやすくしていこうという流れです。

一括採用自体はまだまだ続いていきますが、多様な採用・雇用形態が推進されていくのは大きなトレンドですので、注目しておくといいのかなと思います。

「一方的な情報発信なんてありえない」コミュニケーションは双方向&カスタマイズ化へ

中野:ここまで私が採用市場のトレンドをお話してきましたが、ここからは「学生の志向や感覚の変化」について、寺口さんと話していければと思います。

主に就活生が利用するサイト「ONE CAREER」を運営し、かつ実際に就活生に接する中で見えてきた学生の変化を教えてください。

寺口:先ほどの情報源のアンケート結果に「インターネット上のクチコミ」や「身近な人との会話」が上位に入っていたと思いますが、その傾向が強まっているのはすごくあります。

「身近な人との会話」で言うと、先輩や一緒に就活している友だちから聞いたことに影響を受けることが多い。「自分で探せよ」という意見もあるかもしれませんが、以前よりもずっと企業についての情報量が増え、「情報過多」になっているという背景があります。だから、自分の性格を理解している人たちの意見を参考にするんです。

中野:以前は多くの就活生が利用していたような就活イベントが、集客に苦戦するような状況も出てきていますよね。出展企業は集まるけど、学生が集まらない。代わりに、その企業のインターンや選考に参加した人からの評判や、インターネット、特にソーシャルメディアでのクチコミの影響が大きくなっているのかもしれません。

寺口:実際、Twitterなどソーシャルメディア経由の採用も増えていたりしますよね。企業の人事や経営者でも、Twitterアカウントを持っている人は多い。これって、「今の就活世代が求めるコミュニケーションはどういうものなのか?」が影響していると思います。

今まさに就活をしているZ世代は、若い頃からSNSを活用してきた世代。だから、コミュニケーションはインタラクティブであって当たり前なんですよね。

企業の「〇〇社公式採用アカウント」に愛着は感じられないけど、人事が個人名を出して発信しているアカウントには愛着を持てる。個人の方がインタラクティブですから。

企業名でやるのと個人でやるのでは、後者の方が明らかにフォロワーを増やしやすいです。

中野:企業からの一方的な情報発信ではなく、双方向のコミュニケーションが求められていますね。

寺口:本当にそうで、「一方的に情報を発信してくるものや、広告とかは煩わしい」が学生さんの本音です。事実、広告を消すアプリが有料で売れていたりしていますね。今、求められているのは、インタラクティブであることと、「自分向けである」こと。自分のためにカスタマイズされていたり、志向に合ったレコメンドになっていたりする必要があるんです。

以前ある学生さんに聞いたのですが、「一日に何十通もくる求人サイトからのDMは、自動でアーカイブする設定にしている」とのことでした。一斉送信のバラマキメールは自分にとって価値が無いと判断している。

その点、身近な人からのクチコミは「自分のことを理解してくれている人」がカスタマイズしてくれた情報だし、個人のSNSも「この人の考えが好きだから、この人の発信する情報なら自分に合うかも」と思えるわけです。

中野:スカウト系のサービスでも、「自分以外にも送れるよね?」という文面を送ると「この会社は私のことを分かってくれない」と思われてしまいます。数打てばなんとかなる状態から、一人ひとりに向き合ってメッセージを伝える必要性が高まっていますね。

採用手法はどう変わっている?取捨選択するための視点とは

中野:こういった市場の変化、学生の変化に対して、企業はどう対応していけばいいのか。これが皆さん一番気になるところだと思います。

この図は、現状の採用手法とそれぞれの特徴を一覧にしたものです。採用活動のどの段階に使えるのかと、かかる費用、工数をまとめています。

寺口:そうですね。分け方や特徴はその通りだなと感じます。いくつか補足すると、ナビサイトや大型イベント出展は今まで多く使われてきた手法ですが、認知獲得の「量」を担保できる一方で、認知の「質」つまり学生にどんなイメージを持ってほしいかという点に関しては他の施策で補完する必要がある、というのは前述の通りです。

クチコミはONE CAREERが扱っている領域でもありますが、伸びていますね。結構、企業のネガティブチェックやリアルな情報を知りたいときに使われています。

リファラルも注力する企業が植えていますが、過去の縁故・コネ採用との違いは、「全社採用」プロジェクトである点です。ただ人事が周りを巻き込むというより、全社プロジェクトとして採用をやっていこうという経営判断がなされているケースが多く、中には一から採用チームを作り直す企業もあります。

広報ツールや自社サイト、オウンドメディアも盛り上がっている領域です。WantedlyやPR Tableのような、企業がコンテンツを発信していくプラットフォームも伸びています。人事・採用の人たちがマーケティングやPRの視点を学ぼうとする流れも強まっていますね。

ただ、オウンドメディアへの投資やコンテンツ発信についても手段が目的化している兆候はあります。とにかくかっこよく、とにかく記事をたくさん出そうみたいな。自社の目的や課題別に本当に使える施策を選択して実行していくことが重要です。 

中野:「リファラル採用がいいらしいよ」「採用向けのオウンドメディアが流行っているから作ろう」と、とりあえず取り入れてしまう企業は少なくないですよね。しかしながら重要なのは、各手法の特徴を捉えた上で「自社にどう活かせるか」です。自社の魅力やリソースと相性がいいサービスを選んで行くのが重要だと考えています。

寺口:これらのサービスを提供する企業の営業の方はみんなもちろん「自社のサービスが重要」と言いますよね。ここではフェアに、どういった場合はどのツールが有効なのかを話していきたいです。

以下の図を見ていただきたいのですが、これは「採用ブランディング」の文脈で、「誰がなんと言っている状態を作るか」を考えるための図です。企業について語る「主語」を4象限で考えています。

  • 「私たちはいい会社です」→ ナビサイト、オウンドメディア
  • 「私のいる会社はいい会社です」→ SNSなどのソーシャルメディア
  • 「この会社はこういう会社ですよ」→ フェアなメディア(HR系メディア以外も含む)
  • 「こんな会社だよ/だったよ」→ クチコミサイト、リアルな場、SNS

寺口:今までの採用はほぼ「We」が全てでした。現在は個がメディア化したことで、個人も発信力を持っているので、We以外が発信する情報にいくらでもアクセスできます。クチコミ情報もかつての匿名性の高い真偽不明のものから、半実名の確からしいものが主流になっています。結果、トレンドとして、よりリアルで信頼でき、かつ届きやすいものが「I」や「He/She」になってきている。

「ブランディング」についてよく誤解されていることですが、左側の脚色された発信量ばかり増やし、マーケットからの認知と乖離していく「自画自賛企業」が目立っています。強いブランドを建てるためには、左右の認知を揃えていく必要があります。ものすごく簡単にいうと発言と行動を揃える必要があります。例えば、「私たちはアットホームな会社です」といいながら、圧迫面接をしているとそれは約束破りになりますね。かつては求職者は泣き寝入り状態でしたが、今は良くも悪くも認知と体験のギャップがクチコミとなりマーケットに残り続けます。

だからこそ、Weも含めてどう認識され、どう言われるのかを考える重要性が高まっている。PRの考え方に近いですね。それぞれの主語に当たる人(PRの用語で言う「ステークホルダー」)から望ましい情報が発信されるようにデザインしていく必要があるのかなと思います。

中野:その4象限で言うとダイレクトリクルーティングは「We」として学生にアプローチしていくように思われがちなのですが、実は「企業と学生」で結びつけようとしてもあまり上手くいきません。そうではなく、少し「I」に寄せていく。「◯◯社の▲▲さん」としてアプローチして学生さんとやり取りしていくほうが、採用に繋がりやすくなっています。

寺口:「I」として繋がってくのが重要なんですね。

中野:おっしゃる通りですね。

あとは手法の選び方として、私からは2つの視点をお伝えしたいです。一つは「強みを生かせるか」、もう一つは「資産を貯めていけるか」です。

前者は、採用市場で選ばれるために非常に大切なことです。

「自社の強み、弱みがどこにあるのか。採用競合に対して勝っているのか、劣っているのか」を考えた上で、強みを伸ばしていこうという考え方。例え弱みをカバーする努力をしても、全部が平均点だとどこに対しても負けてしまいます。そうではなく、自社の強みを磨き、その強みに魅力を感じてくれる人にアプローチできる手法を選ぶのが重要です。

後者は、「いくらかければ何人集まる」というような短期的な施策ではなく、長期的に採用力を高めていくための資産を蓄積できる施策を選んでいこうという考え方です。例えば、クチコミも資産の一つですよね。悪いクチコミを資産とは思えないかもしれませんが、その声を聞いて改善していけば確実にクチコミは変わっていきますし、それらは長期的に会社のいい評判になり、採用ブランドに繋がっていきます。

もう一つ重要な資産として挙げられるのがデータです。採用に関するデータを蓄積できるサービスを使えば、「どんな素質を持った人を採用すれば、自社で長く活躍してくれるのか」が見えてきます。それを採用活動に活かすことで、マッチ度が高い、学生も企業もより幸せになれる採用が可能になります。

これからHRの世界にもテクノロジーが入ってくるという中で、ブランド資産やデータ資産が重要になってきます。早い段階からこの視点で施策を選んでいくといいのではないでしょうか。

寺口:どのような採用施策をとるにしても、目的と使い分けが重要ですね。若者の変化に対応しなきゃいけないのはもちろんですが、会社が持つリソースやブランド認知によって打てる施策は違いますから。

中野:手法ありきで考えるのではなく、自社のリソースや保有しているデータ、ブランドイメージなどに合わせて手法を選んでいっていただければと思います。