安全配慮義務とは?違反ケースや対応のポイント、コロナ対応も解説!

「安全配慮義務って?」「どのような義務があるの?」「違反した場合は」など安全配慮義務について、悩んでいる人事担当者もいるのではないでしょうか?

働き方改革を背景に過重労働等の対策が進んでいるなか、残業やハラスメントが原因で安全配慮義務違反で訴訟されるケースも増えています。

ここでは、安全配慮義務をわかりやすく説明するとともに、安全配慮義務違反の主なケースや企業が対応すべきポイント、新型コロナウイルス感染症における安全管理措置などを説明します。

安全配慮義務とは

安全配慮義務とはどのようなことか、その意味や法律上の根拠について説明します。

安全配慮義務とはどのようなこと?

安全配慮義務とは、会社として労働者が安全に働くことができるよう、安全と健康について必要な配慮をしなければならない義務です。

どのようなことかというと、例えば、工場の機械設備に安全装置がない、睡眠時間を十分に確保できないシフトを組んで運転業務に従事させていたといった場合、事故が起きる可能性は極めて高いといえます。

このような業務上の事故が想定される事象に対し、企業は防止対策を施す義務がありますが、これを安全配慮義務といいます。

安全配慮義務は、過去の判例から導かれた義務ですが、労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負っているものと解するのが相当(川義事件(最高裁昭和 59 年4月 10 日第三小法廷判決))と最高裁は判断しています。

この判例は、企業は従業員を雇用する以上、報酬の支払いに留まらず当然に安全配慮義務を負うものであることを示しています。

安全配慮義務違反は、従前は危険作業に対するケガや死亡などのケースが主体でしたが、近年では、メンタル、過重労働などのケースが増加しています。この安全配慮義務を怠ると、民事上の損害賠償責任などを問われることがあります。

労働契約に付随する使用者の義務であり、企業にとっては知らなかったでは済まされない、果たすべき義務です。

法的な位置づけ

安全配慮義務は、民法の基本原則から過去の判例(陸上自衛隊事件(最高裁昭和 50 年2月 25 日第三小法廷判決)、 川義事件(最高裁昭和 59 年4月 10 日第三小法廷判決))によって確立され、2008年に施行された労働契約法の第5条によって、明文化されています。

・労働契約法第5条 抜粋(労働者の安全への配慮)

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

(e-Gov「労働契約法」)引用

・労働安全衛生法第3条第1項 抜粋(事業者等の責務)

事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない。

(e-Gov「労働安全衛生法」)引用

労働災害に関する企業の責任や罰則

労働災害が起きたときの企業に生じる安全配慮義務と、その他の安全衛生責任の一連を説明します。

予防責任(安全配慮義務)

企業は労働者に対して労働災害を起こさせないための予防責任である安全配慮義務があります。

この安全配慮義務は、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務である(最高裁昭和 59 年4月 10 日第三小法廷判決、川義事件)」と判断されており、この義務は労働災害の「危険発見」と「予防措置」を意味します。

(厚生労働省「参考となる裁判例」)

刑事上の責任(死傷責任)

労働安全衛生法では、事業者に対して労働災害防止の事前予防のための安全管理措置を義務付けています。これを怠ると「刑事責任」が課せられます。

また、労働者の生命等にに対する危険防止措置を怠って労働者を死傷させた場合は「業務上過失致死傷罪」に問われます。

民事上の責任(賠償責任)

被災した労働者又は遺族から、労働災害で被った損害について、不法行為責任や安全配慮義務違反で損害賠償を請求されることがあります。ただし、労災保険給付を超える損害に関しては、民事上の損害賠償責任が問われます。

補償上の責任

労働災害を被った労働者に対し、その労働者や家族が生活に困らないように保護する必要があります。

労働基準法、および労働者災害補償保険法によって、使用者の無過失責任として労働者の治療と生活保障を目的とする補償を使用者に義務付けています。

行政上の責任

労働安全衛生法違反や労働災害発生の危険がある場合には、機械設備の使用停止等の行政処分を受けることもあるほか、取引先等からの取引停止を受けることがあります。

社会的な責任

安全配慮義務違反によって、企業の社会的な信頼性が低下することが明らかであり、労働災害によって生じた責任が負のスパイラルによって、企業基盤を揺るがす事態にもなりかねません。

このように、労働災害が発生すると安全配慮義務に関する予防責任のほか、刑事上、民事上など様々な責任が生じ、企業の存続が危ぶまれることがあるのです。

(厚生労働省「労働災害の発生と企業の責任について 」参考

安全配慮義務違反の主なケース

安全配慮義務は、機械設備の事故防止に留まらず、過重労働やパワハラなどによる疾患や自殺などの防止も含みます。ここでは、安全配慮義務違反について特に留意すべき「過重労働」「パワハラ」「職場環境」のケースについて説明します。

過重労働のケース

厚生労働省の調査によると、労災認定件数は、精神障害で年間約500件、脳・心疾患で年間約300件と、過重労働による脳心臓疾患、精神障害、自殺が深刻な問題になっています。

過重労働について安全配慮義務違反で訴えられるケースは、過重労働によって精神疾患や身体疾患になったと主張されるケースのほか、自殺した従業員の遺族から、自殺が過労であったと主張されるケースもあります。

脳・心疾患による死亡、業務に起因する精神障害やそれに伴う自殺は、過重労働との因果関係があると医学的に立証されていますが、労災認定基準では、この医学的根拠に基づき「過労死ライン」を次のとおり定めています。

【脳・心疾患の労災認定基準 抜粋】

  • 発症2~6か月前を平均して80時間以上の残業していること
  • 発症1か月前に概ね100時間以上の残業していること

(厚生労働省「脳・心疾患の労災認定」)

【精神障害の労災認定基準 抜粋】

  • 発病直前の1か月前に概ね160時間以上の残業をしていること(極度の長時間労働)
  • 発病直前の2か月間連続して概ね120時間の残業の残業していること(長時間労働)

(厚生労働省「精神障害の 労災認定」)

脳・心疾患と精神障害では、過労死ラインに違いがありますが、企業は、相対的に低い基準である脳・心疾患における過労死ラインを遵守する必要があります。

昨今、働き方改革関連法で定められた時間外労働(残業)の上限規制では、この過労死ラインを背景に「複数月平均80時間以内/月100時間未満」と定めているのです。

働き方改革関連法の時間外労働の上限規制について詳しく知りたい方は、「働き方改革とは?【わかりやすく】概要と重要ポイント3つを解説」を参考にしてください。

この過労死ラインを超えるような長時間労働をさせていると健康被害リスクが高まるため、違反になるケースが多くなります。

なお、過去の判例では、過重労働に関する企業の安全配慮義務の1つとして、「業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」ことが相当であると示しています。(電通事件(最2小判平成12・3・24民集54巻3号1155頁))

パワハラのケース

職場での「いじめ・嫌がらせ」の相談件数は増加傾向にあり、2018年度は8万件を超え、精神障害の労災認定件数も増えているように、パワハラは企業において大きな問題になっていますが、このパワハラについて安全配慮義務違反を主張されるケースがあります。

パワハラは、(厚生労働省「パワーハラスメントの定義について」)によると、次のいずれも満たすものをパワハラとして定義しています。

  • 優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
  • 業務の適正な範囲を超えて行われること
  • 身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること

パワハラの行為者は、自身では気づいていないことが多くありますので、従業員にしっかりと教育することが求められます。

なお、2019年にパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)が成立し、企業に相談体制や被害者のケア、再発防止策などのパワハラ防止措置が義務付けられましたが、この措置がとられていないと安全配慮義務違反にあたる可能性が高まります。

企業がパワハラの事実を認識していたか否かに拘わらず、何も対応しなかった結果、従業員に健康被害が生じた場合、安全配慮義務違反の責任を問われることになります。

職場環境のケース

職場環境(作業環境)については、30度以上の劣悪な環境で労働をさせていたということがあげられます。

職場の平均気温が28度を超えると、事務所衛生管理基準規則における努力義務の室内環境の基準を超えるため、安全配慮義務違反となる可能性が高くなります。

とくに、工場などの現場作業員においては、現場作業を伴うため熱中症リスクが極めて高くなりますので、空調管理のほか、水分補給や適度な休憩など対処が必要となります。

労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務を怠っていだ場合、安全配慮義務違反を問われることになります。

企業が対応すべきポイント

企業が安全配慮義務を果たすには、安全衛生管理体制を整える必要があります。ここでは、職場の安全衛生、健康管理、ハラスメント対応について説明します。

安全衛生の管理体制の設置

安全配慮義務を果たすには、安全衛生の管理・推進機関を設置することが必要ですが、労働安全衛生法では、常時雇用労働者の数と業種によって、「総括安全衛生管理者」「安全管理者」「衛生管理者」などを選任するとともに、産業医の選任と安全衛生委員会の設置を義務付けしています。

この管理体制の下、次のことを対応していきます。

労働者の危険または健康障害を防止するための措置に関すること
・労働者の安全または衛生のための教育の実施に関すること
・健康診断の実施その他健康の保持増進のための措置に関すること
・労働災害の原因の調査及び再発防止対策に関すること
・その他労働災害を防止するため必要な業務 

(厚生労働省「安全衛生管理体制のあらまし」)より引用

職場環境の安全衛生対応

工場など現場作業においては、労災事故がおきないよう安全な職場環境維持をしていくことが重要です。

  • 整理、整頓、清潔、清掃、躾の5S活動
  • 「ヒヤリ・ハット」による危険の洗い出し
  • 安全衛生の研修実施

とくに若手社員などには、十分に安全衛生教育を実施しないと重大な事故に繋がる可能性があります。そのため、教育体制を整備するとともに、集合研修にとどまらず、OJTによる実地訓練を行うことがポイントです。

健康管理対応

企業は年に1回、労働者に健康診断を受けさせる義務があります。

また、次にあげる有害な業務に従事する労働者に対し、特殊健康診断を行わなければなりません。更に、特定化学物質業務や石綿業務については、それらの業務に従事させなくなった場合においても、その者を雇用している間は、特殊健康診断を定期的に行う必要があります。

  • 高気圧業務
  • 放射線業務
  • 特定化学物質業務
  • 石綿業務
  • 鉛業務
  • 四アルキル鉛業務
  • 有機溶剤業務

(厚生労働省「職場のあんぜんサイト:特殊健康診断」)

なお、二次健康診断を受診させる義務は企業にありませんが、業務の忙しさなどから二次健康診断を受診しない社員もいると思います。突然死などのリスクを減らすためにも、二次健康診断もしっかりと受けさせる体制を整えることが重要です。

メンタル対応

日本の自殺率の高さや精神障害等による労災認定件数の増加を背景に、2015年にストレスチェックの実施が義務化されましたが、労働者のメンタル対策は、企業の大きな課題のひとつです。

厚生生労働省では、ストレスチェックの対象項目として「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」と、さらに簡略化した調査票(23項目)を定めており、年に一回の実施を義務付けしています。

最近では、「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」にハラスメント等に関する項目を追加した「新職業性ストレス簡易調査票(80項目)」を利用する企業が増えています。

ストレスチェック制度を有効に活用することで、従業員のメンタル状況をいち早く察知し、健康被害を未然に防ぐとともに、組織分析によって従業員が働きやすい環境を整えることがポイントです。

(厚生労働省「ストレスチェック等の職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策等」)参考

ハラスメント対応

日本の自殺率の高さや精神障害等による労災認定件数の増加を背景に、2015年にストレスチェックの実施が義務化されましたが、労働者のメンタル対策は、企業の大きな課題のひとつです。

パワハラ防止法にて、企業は職場内のパワハラ防止措置をとる義務が課せられましたが、具体的には次の措置をとることが必要です。

  • 企業によるパワハラ防止の社内方針の明確化と周知・啓発
  • 苦情等に対する相談体制の整備
  • 被害を受けた労働者へのケアや再発防止策

ハラスメントについて詳しく知りたい方は、「ハラスメントを事例で解説!パワハラ防止法にも対応」を参考にしてください。

新型コロナウイルス感染症における安全管理措置

企業は、新型コロナウイルス感染症における安全管理措置を十分に対応する必要があります。

例えば、可能な限り時差通勤やテレワークの実施をする、できる限り3密をさける、ウェブ会議の活用などによる出張の削減、消毒の徹底や飛沫防止対策などしっかり対応する必要があります。

このような対応が十分にできていなければ、感染者が出たときに予見可能性がなかったとはいえません。

管理体制としても、感染者や感染疑いの者が出たときは速やかに出勤停止とするとともに、感染者や感染疑い者の濃厚接触者を速やかに自宅待機させて様子を見るなど水際対策も重要です。

働きやすい職場を目指すためにも、従業員の安全を守りましょう!

安全配慮義務の内容や安全配慮義務違反の主なケース、企業が対応すべきポイントのほか、新型コロナウィルス感染症対策などについて説明しました。

「働きやすさ」を実現するには、安全配慮義務を果たすことが大前提です。

安全配慮義務違反を問われた場合、従業員の心身の健康被害を予見できたか(予見可能性)、予見できたことを回避できたかどうか(結果回避性)がポイントとなります。

安全配慮義務違反の主な根本原因は「従業員の労働状態の把握をおろそかにし、労働者の訴えに応えていない」ことであることが多いですが、労働者の安全配慮を尽くすことが企業自身を守ることにもつながります。

働きやすい職場を目指すため、企業として果たすべき安全衛生体制を整え、従業員の安全を守りましょう!

人事ZINE 編集部

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