終身雇用が崩壊した今、それでも「新卒採用」をするメリットは?

新卒採用といえば、社会人経験のない新規大学卒業者を、そのポテンシャル(潜在能力)で、つまり即戦力というより「長期的な」目標でもって採用するものです。しかし、日本の慣行でもある「終身雇用」が崩壊したと言われ、若者も転職を当たり前に考えるようになった今、新卒採用のメリットが分からないと感じる人事の方もいらっしゃるかもしれません。

「そもそも、新卒じゃないといけない理由ってなんだっけ?」と問うことがあれば、それは採用活動や人事を見直すチャンスです。採用の目的を見失ってしまうと、その後の育成や配置、評価、昇進などすべての人事施策が「ブレる」ことになりかねないからです。

そうならないために、終身雇用が崩壊する今からの時代にも重要な「新卒採用のメリット」をお伝えします。

新卒採用と終身雇用の関係

前提として、新卒採用と終身雇用の関係から整理します。

「新卒採用」とは一般的に、大学を卒業する学生を在学中に選考し、卒業と同時に雇用する採用を指します。新卒者は最初に入社した企業の文化に染まりやすいため、「3年3割*」とも言われるように転職者・高卒者より離職率が低いこともメリットです。

(*3年3割:入社後3年以内に新卒入社者の約3割が離職すること。厚労省の調査によると、実はこの割合は平成7年頃からあまり変わっていないという。高卒者では約4割程度とされる。)

また、新卒採用の雇用形態は一般的に「正社員」かつ「無期雇用(会社が定める定年まで雇用される)」です。いわば、「入社してしまえば定年まで働くことができる」労働条件であり、企業が終身雇用を維持できるという前提のもと作られた慣習です。

入社後も定着しやすい新卒採用と、定着の原因であり結果でもある終身雇用。日本に新卒一括採用の文化がなければ、終身雇用はここまで一般化していなかったかもしれません。

「ジョブ型」ではなく「メンバーシップ型」で雇用してきた日本

もう一つ、日本企業の雇用の特徴として「ジョブ型」ではなく「メンバーシップ型」であることが挙げられます。特に新卒採用は、まだ社会人経験がなく即戦力にならない学生を採用するので、ジョブ(=どの業務ができるか、どんなスキルがあるか)ではなく、メンバー(=どんな人物か、伸びしろがあるか)を見て採用することになります。

日本において新卒採用と終身雇用が一般化したのは、日本の文化がメンバーシップ型採用と親和性の高い価値観(個より全体の和を重んじる・空気を読むなど)を持っていたからでもあるでしょう

なお、日本でも中途採用では(特に年齢が上がるほど即戦力性を求められるため)、ジョブ型の採用が多くなります。

ジョブ型とメンバーシップ型の違い(例)

ジョブ型 メンバーシップ型
採用の目的(企業側)

・この業務をやってほしい

・この期間だけ働いてほしい

・この勤務地で働いてほしい

・この人物と働きたい

・様々な仕事を任せたい

入社の目的(求職者側)

・この業務をやりたい

・この期間だけ働きたい

・この勤務地で働きたい

・この組織で働きたい

・様々な仕事をしたい

採用するときの評価点

・スキル、職務経歴

・労働条件、待遇

・人物面

・カルチャーフィット

・ポテンシャル(伸びしろ)

メリット

・即戦力が手に入りやすい

・任せる業務がなくなれば契約を終了できる

・業務内容や勤務地が変わっても雇用し続け、仕事を任せることができる

デメリット

・優秀な人材には条件面での優遇などが必要になる

・ステップアップを求めて人材が流出し、組織に定着しづらい

・業務を丁寧に教える必要がある

・人物面などを見極めて採用しないと、長期間にわたり組織とのミスマッチが起きる

「終身雇用」の神話はもう崩壊している

2019年5月、トヨタ自動車(株)の豊田章男社長が「終身雇用を維持するのは難しい」という趣旨の発言をしたことは記憶に新しいかと思います。あの「トヨタ」ですら…と、ついに大企業であっても「入社すれば将来安泰」とは考えられなくなったことで時代の変化が騒がれました。

学生もまた終身雇用には期待しなくなってきており、転職を前向きに捉える姿勢や、自己研鑽などにより自身のキャリアをコントロールしたいと考えていることなどが各所の調査でも明らかにされています。

つまり企業も学生も、「入社したら定年まで」という終身雇用の前提で雇用/入社することが難しくなったと言えます。

それでも新卒採用が必要な理由、改めてメリットを考える

日本の新卒採用は「新卒一括採用」とも呼ばれ、少ない新卒学生を奪い合って競争が激化することや、学生にとっても新卒を逃すと既卒では就職が不利になることなど、世界的に見ても特殊なものとされています。

こうした新卒採用では、企業もコストや労力をかけることに疲弊してしまい、「そもそも、なんでこんな大変な競争に巻き込まれてまで新卒採用するんだっけ?」と疑問に思うこともあるでしょう。

それでも、新卒採用は企業の成長や継続にとって、必要不可欠なものだと思います。

終身雇用が崩壊しても、新卒採用が必要な理由ーーそもそも新卒採用のメリットや目的とはどんなことだったか、改めて考えてみませんか?

新卒採用と中途採用のメリット・デメリット比較

終身雇用の崩壊や採用売り手市場という今の時代の流れを踏まえて、新卒採用と中途採用のメリット・デメリットを比較しました。

新卒採用と中途採用の比較まとめ

新卒採用 中途採用
メリット

・入社後の定着率が良い

・他社を知らないため自社に染まりやすく、企業文化を継承できる

・ジョブローテーションや全国転勤など柔軟に配置できることが多い

・毎年、4月入社者を安定的に採用できる

・スペシャリストや経験者、自社にない業務の経験者など、即戦力を採用できる

・足りないポジションや年代など欠員をすぐ補充できる

・他社のノウハウや人脈を獲得できる

デメリット

・競争の激化でコストや工数がかかる

・戦力化するまでの育成に時間がかかる

・転職に抵抗感がなくなり、すぐに再度転職してしまう危険性がある

・年齢やライフイベントなどの関係から転勤や異動に抵抗の可能性がある

・他社で身につけたやり方や常識などの文化が抜けにくい

採用の目的

・経営幹部候補

・ジェネラリスト人材

・企業文化の継承

・組織活性化

・年代別構成比の適正化

・即戦力、欠員補充 ・スペシャリスト人材

・他社のノウハウ獲得

・組織活性化

・年代別構成比の適正化

コスト

求人広告(ナビ媒体)サイト掲載費や、イベント参加費など高額になることが多い

新卒採用に比べると比較的安い

工数・期間

早期インターンシップや大規模な説明会、母集団に対する選考、内定後のフォローなど非常に工数がかかる。期間も1〜2年と長い。

2〜3回の面接程度で済むことが多く、期間も数ヶ月と短い。

入社後の定着

即戦力性

採用が難しいポイント

・少子化

・求人倍率増で人材の奪い合い競争激化。

・BtoBや中小企業は学生からの認知(イメージ)されにくく、応募が少ない

・専門性の高い人材など一部人材の獲得は待遇面の優遇等も必要

・年間を通して求職者が就職活動をしている

最近のトレンド例

・早期化、二極化(年内など早くから動き出す学生と、3月の広報解禁まで動かない学生)

・学生のナビ離れ、一人当たりエントリー社数の減少

・新卒版ダイレクトリクルーティングサービスの普及

・リファラル採用(既存社員からの紹介)の普及

・人材紹介等で、エンジニア職など一部人材の採用成功報酬の高騰

・在職しながらの転職活動者の増加

終身雇用が崩壊しても、新卒採用は企業の「継続」に必要

終身雇用が崩壊し、転職が当たり前になりつつあるとはいえ、それでも新卒採用が必要な理由には次のようなものがあります。

メリット:入社後の定着率が良い

一般に、新卒採用のほうが中途採用よりも入社後の定着率が良いとも言われています(「中途入社者の定着」実態調査―『人事のミカタ』アンケート―)。

他社を知らないため自社のカルチャーに染まってくれ、文化やノウハウを継承していく人材という点で、会社の継続にとって重要な存在となります。

メリット:他社を知らないため自社に染まりやすく、企業文化を継承できる

会社が発展し事業を継続していく中では、創立から支えたメンバー(主に中途採用の経験者など即戦力だった人材)が築き上げた成功のセオリーを「再現・反復」することで成長を維持するという段階が訪れます。

そのときにも、他社を知らず若くて吸収力も良い新卒採用者は、純粋に業務を再現・反復してくれる人材として適しています。

経営幹部候補として、会社を深く知り人望を集められる人材に

最後に、将来の経営幹部となる人材には、長く自社に貢献して周囲の社員からも信頼され、会社の歴史を良く知り、会社の理念やビジョンを語ることができる必要があります。

新卒者は若く経験もないため、特定の専門分野にこだわったり、個人的な事情で勤務地にこだわる人材が比較的少ないと言えます。

そのため総合職として採用し、ジョブローテーションや全国転勤なども交えながら、幅広い視点で自社を知るよう育成しやすいでしょう。

幹部候補となる人材を獲得するには、これらの新卒採用のメリット(定着が良い・文化に染まりやすい・さまざまなポジションを経験させられる等)がまさに適していると言えます。

新卒採用に意義を感じないなら、中途採用も選択肢に

新卒採用と中途採用では目的やコスト、メリット・デメリットも異なります。

しかし、少子化の影響もあって学生が減る一方の中、全ての企業にとって新卒採用が必ずしも必要かどうか、労力やコストに見合ったメリットがあるかという点も踏まえて、一度考え直してみるのも良いでしょう。

「新卒じゃなくてもいいのでは?」と思う部分があるのであれば、一部のポジションや、採用人数のうちのいくらかの割合を中途採用にてまかなうことも選択肢にできると思います。

例えば、

  • 人事や法務、経理などの管理部門に配属する人員は、他社での経験者を採用する
  • 採用予定人数のうち一部を第二新卒など既卒者の若い人材にする

といったように一部を中途採用に置き換えるだけでも、コスト・工数の削減や、新卒採用者に求める役割の明確化ができるかもしれません。

メリットを理解せずに新卒採用を行うと失敗することも…

新卒採用は人事の方にとって非常に大変な業務ですが、メリットも多く、企業の成長・継続に必要不可欠なものです。

メリットを理解せずに「今までもやってきたから、なんとなく」「他社もやっているから、なんとなく」で新卒採用をしていると、目的が見失われてしまい、目の前のコスト削減や緊急の課題解決のみに囚われて失敗してしまう危険性もあります。

危険!「なんとなく」新卒採用の失敗経験談

私が前職にて中小企業の人事を担当していたときには、会社としても担当チームとしても、新卒採用のメリット=「そもそもなぜ新卒なのか」を理解せずに、新卒採用を行っていたことがありました。

そのときの失敗とは、次のようなものです。

・なんとなく隔年採用
 → 年代別の人員構成がいびつになってしまい、数年後には中堅社員が激減する見通しに…

・なんとなく若干名採用
 → 入社人数がバラついて体制が整わず、「後輩のいない若手」や「場当たり的な配置転換」発

・なんとなく素朴な良い子を採用
 → 新入社員は「自分のどこを評価されたか」が分からず、モチベーションが保てない

どれも、新卒採用のメリット・目的を踏まえた採用計画ができていなかったことによります。

  • 経営幹部候補として、必要な時期に必要な人数が在籍しているように採用していくこと。
  • 組織活性化のため、各部門に知見をもたらしたり、若手社員の部下となるように配置すること。
  • どんな人材を、会社のどのような将来のために採用・育成するのか、人材要件を定義すること。

…など、新卒採用におけるメリットと目的を踏まえられていないということは、採用した後の人員配置や教育、人事評価など全ての人事施策にまで影響してくること、つまりは「ブレない軸」が存在していないということなのだと、身をもって痛感しました。

メリットと目的を改めて整理し、最適な新卒採用計画を

終身雇用が崩壊したと言っても、新卒採用には「経営幹部候補」や「ジェネラリスト人材」、「企業文化の継承」など、さまざまなメリットがあります。

新卒採用における競争は今後も少子化等により激化を免れませんが、例えば「どの企業から見ても優秀そうな人材」(高学歴や体育会系など)ではなく、「自社で活躍する人材」を定義しターゲティングすることで、採用しやすくなることもあります。

新卒採用イコール難しいもの、大手企業や人気企業にしかできないもの、ではありません。

また、短期的な視点で新卒採用を止めてしまうことは、企業の将来の人員構成に大きな影響を与えることにも繋がります。企業の「健康」のために、代謝を促す・新しい空気を入れる新卒採用は重要です。

新卒採用は中途採用とはさまざまな点で異なります。それぞれのメリット・デメリットを比較し、自社が採用をする目的を整理した上で、ぜひ最適な新卒採用計画を考えてみてくださいね。

米田 彩香

新卒で入社した前職の老舗中小企業にて人事・採用を5年間担当。紋切り型の就活スタイルに疑問を持ち、OfferBoxの理念に共感したため2019年3月に株式会社i-plug入社、インサイドセールスチームに所属。夢は子供が独立したあとに学生街で食堂を開くこと。