【人事向け】実務に役立つおススメの資格3選とキャリアアップの落とし穴

企業の人事として働く中で、資格取得に興味を持たれている方は大勢いらっしゃると思います。では、人事が資格を取ろうと考えている目的は何でしょうか?業務を行う上で不足している知識を補うためでしょうか。それともキャリアアップや転職を考えてのことなのでしょうか。

ここでは、実務に役立つ資格を紹介しながら、人事としてのキャリアアップについて考えていきたいと思います。

人事部員の実務に役立つおススメの資格3選

人事職には、弁護士や医師などに代表されるような、資格取得者でなければ行ってはいけない業務はほとんどありません。しかし、信頼性が必要な人事業務において、法令を正しく理解し遵守することや、体系的な知識に基づいて業務を遂行することはとても重要です。ここでは、専門家としての人事業務を行うことができるようになるためにお薦めの資格をご紹介したいと思います。

社会保険労務士

社会保険労務士(以下、社労士)とは、社会保険労務士法に基づいた厚生労働省系の国家資格です(2021年1月現在)。社労士は「人材」に関する専門家です。企業を経営するうえで必須となる労務管理や、社会保険に関する諸手続き、労働の諸問題、年金に関する相談等、その業務内容はとても広範囲にわたります。

明確な裏付けのある知識により、人事としての職務を全うするのに必要な専門知識の大部分を体系的に身につけることができます。その結果、管理職へのキャリアアップにつながるだけでなく、転職や独立して開業することも可能となり、キャリアの選択肢が広がります。

資格取得後に起こる最大の変化は、法律の専門職として適正な業務を遂行できるようになることに尽きます。

例えば、求人広告に載せる文面には労働基準法に抵触する内容を書くことはできませんが、知識不足から誤った内容を記載してしまう場面がよく見受けられます。正しい法律の知識を身につけたことで、社内では慣例となってしまっていた法律的な問題に気付くことができるようになるのです。

このような、コンプライアンス上の問題の発生を未然に防ぐこと以外にもメリットはあります。

2020年に国が打ち出した雇用対策の一つに特例の雇用調整助成金という制度があります。このように日々法律の改定や制度の変化が起こっているわけですが、自社にとって必要な対応に気付き、社内体制を整えたり、申請書類を揃えたりするのに、社会保険労務士の知識は必要不可欠となります。

さらに労働社会保険の手続きには、労働基準監督署、、ハローワーク、年金機構といった行政機関への申請が多いのですが、社会保険労務士の資格を取得していることで、書類策債などの業務に対し、専門家としての扱いを受けることができます。

社労士試験の実施科目は次の8つで構成されています。

  • 労働基準法及び労働安全衛生法
  • 労働者災害補償保険法(労働保険の保険料の徴収等に関する法律を含む)
  • 雇用保険法(労働保険の保険料の徴収等に関する法律を含む)
  • 労務管理その他の労働に関する一般常識
  • 社会保険に関する一般常識
  • 健康保険法
  • 厚生年金保険法
  • 国民年金法

労働契約法、労働者派遣法、最低賃金法、男女雇用機会均等法、職業安定法などその他多数の労働関係法令からも一般常識の科目で出題されるため、幅広い知識が必要とされます。

また、公表されている合格基準をみると、総合点ではなく科目ごとの基準を満たさねばならず、偏った知識や勉強方法では合格しない仕組みとなっています。

なお、受験するには資格を満たしている必要があるので、全国社会保険労務士会連合会(試験センター)が運営する社会保険労務士試験オフィシャルサイトにて事前に確認してください。

産業カウンセラー

産業カウンセラーは、一般社団法人日本産業カウンセラー協会が認定する民間の資格です(2021年1月現在)。メンタルヘルス対策への支援、キャリア形成への支援、職場における人間関係開発・職場環境改善への支援という、3つの活動領域があります。

特に、人事職にとって重要な「人の話を聴くスキル(傾聴)」を身につけることが可能です。産業カウンセラーの資格を取得する過程において、養成講座では104時間におよぶ面接実習と行いますので、専門家の先生により指導を受けたカウンセリングスキルを学ぶことができます。例えば、メンタルヘルス対策としてメンタル不調の予防から危機介入、職場復帰への支援、ストレスチェック後のフォローなど、様々な場面において傾聴スキルを活かすことが期待されます。

先行きが不透明な時代となり、15歳から39歳までの死因の第1位が自殺となってしまっている日本社会において、働くことや生きることの困難さが増しています。悩みや不安を抱く従業員の援助は簡単なことではありませんが、産業カウンセラーとして学んだスキルはそれを助けてくれるはずです。

産業カウンセラー養成講座を修了すれば、産業カウンセラー試験の受験資格を得ることができます。養成講座は、受講期間が6ヶ月コース・10ヶ月コース、受講時間帯が土日コース・夜間コースから選択できるようになっていて、働きながらでも受講しやすいように工夫がなされています(2021年1月現在)。なお、地域差がありますので一般社団法人日本産業カウンセラー協会公式サイトを確認してください。

給与計算実務能力検定®

給与計算実務能力検定®とは、内閣府認可の一般財団法人職業技能振興会が認定する民間の資格です(2021年1月現在)。企業に不可欠な給与計算業務に関する知識、および実務遂行能力を客観的に測る検定試験で、2014年に第1回目の試験が開催された、比較的新しい資格です。企業に求められるコンプライアンスが高まる中で新設されました。

ミスの許されない正確性が求められる給与計算業務に必要な、労働法令や社会保険の仕組み、所得税・住民税等の幅広い知識を身につけることができます。もし人事職として給料計算に関わる業務を任されたのであれば、学ばなければならない内容ばかりですので、資格取得は業務の向上に直結します。

また、社労士資格と親和性があることも特長です。社労士にチャレンジする前に、まずは給与計算実務能力検定について学ぶことでより、段階的に効率よく学ぶことができます。

給料計算業務のパターンとしては、専用ソフトを使って自社で行う場合と、税理士や社労士、給与計算代行外車などといったアウトソーシング先に外注する場合の二通りが考えられます。

自社の給与計算ソフトを使う場合であれば、給与計算の正しいしくみを理解した上で業務を遂行できますので、法令順守とミスの削減を実現することが可能です。

例えば、「労働時間の把握に誤りはないか」「残業代は正しく計算されているか」「育児休業に関わる社会保険料の控除は正しく行われているか」といったことに対してです。これはアウトソーシング先に委託している場合にも同じことが言えます。アウトソーシング先が必ずしも正しく業務を行っているとは限りません。発注元として、正しい知識のもとに業務を判断することが求められるからです。

では試験の概要をみていきましょう。問われるのは次の3点です。

  1. 給与計算業務に必要な基礎知識
  2. 給与計算実務に必要な法的知識(労働基準法等)
  3. 演習問題(実際の給与計算)

ちなみに、2年ごとに更新が必要となりますので、資格を継続して保持したい場合は注意が必要です。

人事部員の実務に役立つその他の資格

人事職の仕事は労務管理や採用、教育、給与計算など多岐にわたります。これらの基本業務に関しては、先にご紹介した3つの資格を取得することで多くをまかなうことが可能ですが、企業によっては安全衛生管理や従業員の健康管理、人事戦略・企画などの業務を人事職に求められる場合があります。

そこでこの章では、そのような業務を担当することになった場合に必要な知識を身につけることができる資格についてご紹介したいと思います。

キャリアコンサルタント

「キャリアコンサルタント」は、2016年に国家資格に格上げされた資格です(2021年1月現在)。守秘義務や信用失墜行為の禁止義務が課されています。

職業の選択、職業を通じての生活設計、能力向上といったキャリア開発に関する相談に対応して、助言や指導を行うことを主な目的としています。

相談者はキャリアコンサルタントに相談することを通じで、自分の適性や能力、価値観、考え方などに気づきを得て、自己理解を深めていきます。

この資格は、どちらかというと就職や転職についてサポートする部署(大学の就職支援室やハローワークなど)の人が取得する資格ですが、在籍する企業の業務内容として、従業員のキャリア形成に対してのアドバイスを行う役割が期待される場合には、とても有効なスキルを身につけることができます。

例えば技術者派遣事業者は、キャリアアドバイザー制度を導入し、組織の垣根を超えて、在籍する全エンジニアにキャリア構築の支援を行っており、離職者の発生を防ぐ役割を担っています。

キャリアコンサルタントとしての登録を継続するには、5年ごとに更新する必要があります。また、更新手続きを行う条件として一定の講習を受講する必要があり、費用もかかりますので、注意が必要です。

衛生管理者

衛生管理者とは、労働環境の衛生的改善と疾病の予防処置等を担当し、事業場の衛生全般の管理をする人を指しています。労働安全衛生法により定められた国家資格(2021年1月現在)で、50人以上の労働者がいる職場では必ず衛生管理者を選任しなければなりません。一種と二種があり、どちらが必要なのかは会社の業種によります。

週1回作業場を巡視したり、衛生委員会のメンバーとなったり、産業医と連携したりして、労働者の健康障害や労働災害を防止するための仕事をします。

職場の労働者数に応じて選任しなければならない衛生管理者の人数が定められており、選任していないと罰則があるため、会社から資格取得を指示される場合があります。

メンタルヘルス・マネジメント®検定

「メンタルヘルス・マネジメント®検定」とは、厚生労働省が掲げている「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を受けて設けられた検定です(2021年1月現在)。

年代別の死因をみると15~39歳の死因の第1位は自殺です。若い世代で死因の第1位が自殺となっている国は、先進国(G7)では日本だけです。心の不調による休職や離職が増加している状況を鑑み、2015年12月より、常時使用する労働者数が50人以上の事業場ではストレスチェックを年に一回実施することが義務化されました。

このように、現代の企業の人事にとって心の健康管理(メンタルヘルス・マネジメント)は一層重要な課題になってきており、従業員の心の不調の未然防止と活力ある職場作りのために、人事として必要なメンタルヘルス対策に関する知識や対処方法を習得しておくことは有効な手段です。

MBA(経営学修士)

MBAとは、大学院において経営学を修めたものに対して授与される学位のことです。

人事職にとってMBAの取得までは必要ないのではないかと考えている方がほとんどだと思いますが、これは人事業務を独立した形で捉えるのか、経営戦略と人事戦略を一体化した形でとらえるかによって変わってきます。

人事職をきっかけに企業経営に関わっていきたいという希望があるのであれば、MBAにチャレンジしてみる価値はあります。

例えば、中央大学のビジネススクールでは、平日午後18時50分から講義を実施しています。日曜日も開講されており、週末だけの通学でも学位の取得は可能です。急な仕事で講義に出席できない場合、VOD(ビデオ・オン・デマンド)により講義を視聴できますし、出張先からオンライン講義システムを用いて講義に参加することもできます。

このように通常業務に支障のない形での通学が可能ですが、やはり会社の理解が必要な場面が出てきますので、正式な承認を得たほうが良いでしょう。

学費の負担も大きいですが、給付奨学金(返還義務がない奨学金)や専門実践教育訓練給付金を受給すれば、自己負担額を減らすことができます。

資格取得というキャリアアップの盲点

ここまでは、資格取得が人事業務を正しく行っていくうえで、どのように有効に働くかということについて考察してきました。しかし、手段が目的化してしまう危険性もはらんでいます。ここでは、資格取得を考える際に陥ってしまいがちな落とし穴についてごご紹介したいと思います。

資格取得はゴールではない

資格取得を目指す方の中には、転職回数が多いという転職に不利な要素をカバーするために資格を取っておこうと考える方もいらっしゃるでしょう。確かに資格を持っていることは自信につながりますし、一定の知識の保有を証明できますので履歴書の見栄えは良くなります。

しかし、独立開業でもしていない限り、その資格を持っていないと仕事ができないということはありません。資格取得は自らの実務に関連する何かを成し遂げるための手段であって、決して資格取得自体が目的ではないはずです。資格取得で自分自身の何を補うのか、しっかりとしたビジョンを持ってから資格試験に取り組みましょう。

資格コレクターという落とし穴

実務と関係のない資格を興味に任せて片っ端から取る人、次々と手を出しは中途半端に投げ出す人、あるいは見栄えが良いという理由だけで難関試験にチャレンジしていくような人を資格コレクターと言います。

キャリアとは実務を通して「自分の通ってきた道」のことを指します。決して履歴書の見栄えを良くするために「取得した資格」を並べることではありません。キャリアアップ=資格コレクターでないことに注意してください。

キャリア構築の観点でいえば、資格を持っているだけの人より、無資格でも実務経験の豊富な人の方が評価されます。たとえ試験に合格しなくても、自分の実務と関連した資格試験を通して体系的な知識を身につけた人の方が、実務では活躍できるものなのです。

まとめ

資格取得に興味を持った時点でキャリアアップのスタートラインに立っています。目の前の仕事に真剣に取り組む中で興味のある資格を見つけたら立ち止まり、何のためにその資格を取るのかを考えてみましょう。

5年後でさえ予測不可能な時代ですので、何を勉強し、どんな能力を身につけたら良いかはわからないと思います。しかしそれを考えることは決して無駄ではありません。

たとえ資格が取れなくても試験対策で最後まで勉強することに意味があります。資格取得自体を目的とするのではなく、資格取得によって何が得られるのか、実務や今後のキャリア構築にどう活かすことができるか、などについてしっかりとしたビジョンを持つとともに、実務経験を確実に積み上げることこそが、人事職として行うべきキャリアアップではないでしょうか。

人事ZINE 編集部

人事ZINE 編集部