昨今、新卒採用における「ミスマッチの解消」が求められるようになり、各選考フローの重要性が高まってきています。
中でも、求職者と企業が直接関わりをもつ「面接」の重要性は日に日に高まっており、面接官の位置づけや役割・面接官と求職者の関係性は、従来に比べ変化しつつあります。
例えば従来の面接では、
- 10~15分間、面接官から質問をして求職者を評価する。
- 力関係で言うと企業の方が上。「採る、選ぶ」ということが前提。
- 評価基準は「優秀さ」。学歴・知識・地頭の良さを見る。
のように、企業が優位に立ち、面接官が主観的に「良い」と思った求職者を選ぶというスタイルでした。
しかし、それでは「長期的に活躍できる人材が見つかりにくい(精度が悪い)」ということで、面接のスタイルそのものが以下のように変化してきています。
- 自社の採用基準・質問すべきことを理解した面接官が、30分以上かけて求職者を見極める
- 企業と求職者は対等。企業側も評価されているという意識を持つ
- 「優秀さ」だけでなく、求職者の過去の経験から「信念」「能力」を引き出す。
- 「企業の魅力付け」を行い、求職者の入社意欲を高める場である認識を持つ
今回は、上記のような変化が起こる新卒採用において、面接官が抱えがちな悩みを確認していくと共に、悩みを解消するために面接官が持つべき心得や、高めておくべきスキルについて、新卒採用アドバイザーの小野さんに解説していただきます。
目次
面接の役割や価値が変化する中で、多くの企業が面接の役割を果たせていない
人事ZINE編集部
ーー昨今、面接の役割や価値が変化する中で、悩みを抱える面接官は多いのではないでしょうか?
小野さん
実際、悩みを抱える面接官は多いと思います。
例えば、
- 1回の面接では、候補者の特徴や性格が見極められない
- 候補者の入社意欲が上がらず、離脱率・内定辞退率が高い
- ミスマッチによる現場からの不満
- 採用人数・採用品質のノルマ
- 良い人材が集まらない
- どの学生もよく見える(悪く見える)
- 個人の主観で合否を出してしまう
など、思いつく限りでは、以上のような悩みが考えられますね。
悩みが発生してしまう原因としては、冒頭説明したような面接スタイルの変化が挙げられます。
意識として「ミスマッチをなくさないと」と考えていても、企業側が優位に立つ従来のスタイルのままであったり、面接の役割が把握できていなければ「1回の面接では、候補者の特徴や性格が見極められない」「候補者の入社意欲が上がらず、離脱率・内定辞退率が高い」といった悩みが起こってしまいます。
その結果、ミスマッチはなくならず、採用品質の向上に至らないケースが多くなり、面接官の悩みが増えていくというスパイラルに陥ってしまいます。
上述した悩みの中でも、「どの学生もよく見える」という声は最近増加しているように感じますね。
ーー「どの学生も良く見える」ということは、面接のスタイルが変化することで学生側にも何か変化があったのでしょうか?
小野さん
現在、SNSの普及や就活生の口コミサイトが出来てきたことで、「こういう発言をしたら通った」というような情報が学生側から発信されるようになってきました。そのため、面接で同じ発言をする学生が増えてきているのです。
就活の口コミサイトやSNSが悪いというわけではありません。しかし、学生の発言がテンプレ化することで、面接の役割でもある「候補者の特徴や性格を見極める」ということが出来にくくなってしまい、面接官が悩みを抱える原因になっていることは確かですね。
ーー「面接官の悩み」や「学生の発言がテンプレ化していること」について、企業規模による捉え方の違いはありますか?
小野さん
同じ悩みでも企業の規模によって違いがあると思います。例として「いい人材がなかなか集まらない」という悩みを挙げてみてみましょう。
大企業では毎年の応募者が多いので、その分発言のテンプレ化が顕著です。
質問に対してしっかり答えてくれるので、面接の事前準備としてかなり下調べしてきたことは伝わってくるのですが、深堀り質問が出来ていないと「素が見えず、判断に困ってしまう要因」を増やしてしまうことになります。
一方、中小企業の場合はそもそも応募してくる人数が少ないため、限られた人材から「どうしても採用しなければいけない」という状況が生まれてしまいます。
例えば、3人の採用予定に対して5人の応募しか来なかったとき、面接がしっかりできていないと「5人の中から3人を採用する」というよりは「5人のうち2人をどう落とすか」という判断にシフトしてしまうことがあるようです。
自社が求める人材と合致しなくても採用してしまう、もしくは採用しなければいけないということが起こり、その結果、ミスマッチの増加を加速させてしまうのです。
以上のように、企業規模による悩みの違いはありますが、共通点として「面接の役割が果たせていない」ということが考えられます。
面接官が面接の役割を果たすためには「面接のスタイル」や「求職者の評価方法」を見直す必要がある
人事ZINE編集部
――面接官が面接の役割を果たすために出来ることはありますか?
小野さん
まずは、面接スタイルの見直しをした方がいいですね。
例えば、「各選考フェーズで聞くことを決めて、求職者の情報をきちんと掘り下げる」「複数人で面接をし、より客観性を持たせる」というのも一つの方法だと思います。
面接の弱点は「時間制限があること」だと思います。それだとどうしても質問できることが限られてしまい、「引き出すべき情報が引き出せなかった」ということになってしまいます。
コンピテンシー面接のように、選考フロー毎に引き出す情報までを細かく決めてしまえば、最終的な判断に困る事は少なくなるはずです。
また、「面接官の主観的な判断で採用を決めてしまう」という弱点もあります。
面接官の主観のみで選んでしまうと、「人柄がよかった」「第一印象が良かった」など、採用基準とは関係ない所で選んでしまう「ハロー効果(※1)」を助長させてしまう要因にもなり得ます。
※1ハロー効果とは:社会心理学の用語で、ある対象を評価する時にそれが持つ顕著な特徴に引きずられて他の特徴についての評価が歪められる現象のことを指します。
面接官個人の主観が入ってしまうことを避けるのであれば、「複数人の面接官で面接を行うこと」で、対策は可能です。
もしくは「面接官マニュアル」を作成し、「自社の採用基準をもとに作成した質問項目」を面接官に共有しておくことでも、「選考と関係ないところでの判断」はある程度防ぐことができると思います。
――しかし、上記の解消法を面接官個人で実現するのは難しいのではないでしょうか?
小野さん
そうですね。人事や面接官だけで完結してしまうのではなく、現場や経営層と協力して採用に取り組む姿勢が大切だと思います。
「自社で長期的に活躍できる人材」は、面接官や人事だけではっきりとイメージできることではないので、実際に現場で活躍している人材と関わったり、その人材の良い部分を整理したりしておくと、よりミスマッチを減らすことが現実的になりますね。
なので、ここで紹介したことはあくまでも企業として取り組むべき方法です。
面接の役割を全うするために、面接官が持っておくべき「面接の心得」
人事ZINE編集部
ーー面接官が持っておくべき面接の心得などはありますでしょうか?
小野さん
面接官が持っておくべき心得としては、以下のようなものが挙げられます。
- 企業の代表であるという意識をもつ
- 事前準備をしっかりと行う
- 企業と学生のマッチングを意識する
- 評価すると同時に評価をされている認識を持つ
- 発言に責任をもつ(特にNG質問は気をつける)
面接官は選考フローの中で応募者と直接関わりを持つ唯一の社員なので、応募者の目には「その企業の代表」として映ります。ですので、企業を代表してその場にいるということは必ず意識しておくべきです。
加えて、その企業の代表であるということは、応募者がその企業の雰囲気などを掴める唯一の窓口になるということです。「評価されている」という意識をもちつつ、発言には責任を持つ必要があります。
仮に企業側が「この人を採用したい」となっても、応募者の入社意欲が下がってしまうと採用には至らないので、「入社したい」と思ってもらえるような面接にすること、いわゆる「魅力付け」を心がけることが大切です。
ーー「面接での魅力付け」が大切とのことですが、面接をきっかけに応募者が「入社したい」と感じることは多いのでしょうか?
小野さん
「面接官の雰囲気が良くて入社を決めました」という声を聞くことはかなり多いです。よく考えてみると、現場の社員が面接官になっていない限り、入社後に面接官を担当していた社員と関わることってそんなにないはずなのですが、そういった声を聞く度に面接官の重要性というものを再認識しますね。
ですので、面接の短い時間で、いかに会社の魅力を伝えられるかということも面接をする上で心がけるべき点の一つだと思います。
面接官がもっとも高めておきたい能力は大きく分けて「候補者をひきつける能力」と「候補者を見抜く能力」の2つ
人事ZINE編集部
ーー面接官が高めておくべきスキルなどはありますでしょうか?
小野さん
大きく分けて2つあります。
1つ目は「候補者を冷静に評価し、採用の是非を判断する能力」です。面接とはいえ人と関わると少なからず情が移ってしまう可能性があるので、冷静かつ客観的に評価できる能力は採用の質を高める上で必要ですね。
2つ目は「候補者の入社意欲を高める能力」です。上述したように、面接で入社意欲は大きく変わるので、面接官に必要な能力としてはかなり重要です。
求職者の入社意欲を高めるために必要な条件としては、以下の5つが言われています。
- 業界の特徴、業界の中での自社の特徴を話すことが出来る
- 自社の仕事の面白さを自分の体験をもって話すことが出来る
- 自社の理念・ミッションに心の底から共感し、語ることが出来る
- 自社の魅力を自分の体験をもって語ることが出来る
- 求職者の話をじっくり聴いたうえで、自社をオススメできる
自分の体験という言葉が何度か出ていることからもわかるように、実体験を聞けることは、その企業で働いたことのない人にとっては貴重ですよね。さらに、入社後のイメージもしやすくなるので、成功体験であればより魅力付けはしやすくなります。
先天的にセンスとして持っている人もいれば、トレーニングによって飛躍的に能力が伸びる人もいますので、面接官としてぜひ高めていただきたい能力ですね。
ーー必須ともいえる2つの能力を高めるためには、どういったトレーニングが出来るのでしょうか?
小野さん
一朝一夕で身につくものではないのですが、能力を伸ばす方法はいくつかあります。
最も経験値が得られるのは「実際に面接の現場に立つこと」ですが、全く経験のない人をいきなり面接の場に出すのはミスマッチなどのリスクがありますよね。
そのため、企業によっては面接練習を行ったり、先輩社員と面接に同席したりということもあるようです。そのほか、社外で採用担当者向けのセミナーが開催されていることもありますので、そういったセミナーを活用してみるのも良いと思います。
面接経験の無い人がどうしても面接に出ないといけない場合、「構造化面接」という手法を取り入れてみるのもいいですね。
以前紹介したコンピテンシー面接も構造化面接の1つですね。自社で採用基準を決めて、それに合わせた質問項目を細かくマニュアル化して、それさえあれば誰でも面接できるような状態を作ってしまうのも有効な方法だと思います。
最後に
今回は、新卒採用アドバイザーの小野さんに、面接官が抱えがちな悩み、そして悩みを解消するために面接官が持つべき心得や、高めておくべきスキルについてお話しいただきました。
面接官のスキルを会社として全体的に上げないまま採用に取り組んでしまうと入社後のミスマッチや辞退されてしまう可能性も高くなり、採用計画を達成することが難しくなります。
会社全体として面接官教育を行ない、個々の面接官としての能力を高め、精度の高い面接を行なうことを心がけることはもちろんのこと、企業が一丸となって採用に取り組むことも、面接の質を高め、いい人材を獲得するうえでは重要です。
悩みを抱える面接官が多い場合には、一度面接のやり方から見直してみてはいかがでしょうか?