「人材ポートフォリオ」をとにかくわかりやすく解説!〜設計手順も紹介〜

人事の世界において「人材ポートフォリオ」という言葉を聞かれたことがある人事担当者の方も多いと思いますが、一方で「曖昧・難解で意味が分かりづらい」「自社における人材ポートフォリオがイメージしづらい」と感じられることも多いのではないでしょうか?この記事では、人材ポートフォリオについてその作成手順を通して“とにかく分かりやすく”、徹底解説します。

人材ポートフォリオとは、「適材適所」=社内のどこにどんな人材がいる(べき)かの分析結果

人材ポートフォリオは、その企業の事業活動に必要な人材がどのように構成されるかを分析したものです。簡単に言うと、「適材適所」を徹底するための考え方・ツールが人材ポートフォリオです。

つまり、自社がその事業内容・文化に照らして「成果を上げる」ためには

  • 社内のどこに(例:部門、役職、ポジション)
  • どんな人材が(例:職種、スキル・能力、適性・性格タイプ)
  • どのくらい(例:人数、在籍年数)

存在していれば効果的かを考えたものが、人材ポートフォリオです。

人材ポートフォリオを考えることによって、自社の人材について「実際にどのくらいいるか」(現状・課題)を分析したり、「本来どのくらいいるべきか」(目標・理想)を設計することができます。採用計画はもちろんのこと、人材育成、配置、評価など中長期的な人事マネジメントにおいて必須の考え方であるとして、近年注目が高まっています。

一般には「人材ポートフォリオを分析する」「人材ポートフォリオ設計に沿って採用計画を立てる」といった言い方をします。

ちなみに、「ポートフォリオ(portfolio)」という言葉はもともと「携帯用の書類入れ」「紙ばさみ」の意味でした。そこから転じて「有価証券一覧表」の意味を持つようになり、人事の世界では企業の人的資産の構成を、またデザインの世界では自身の作品一覧を「ポートフォリオ」と呼ぶなど、現在は幅広い意味で使われています。

なぜ人材ポートフォリオを考える必要があるの?

人材ポートフォリオについて、「これまではそんなもの考えなくても経営して来られたんだから、なくても大丈夫だろう」と思われるベテランの人事の方もいらっしゃるかもしれませんが、「これまで」必要なかったとしても「今から」は必要になる考え方であることをお伝えしておきます。

日本・世界のビジネス環境の変化に適応するため

昔の日本企業では、労働力人口も多く経済も高度成長していたため、残業や転勤などを課して「忠誠心」でふるいにかけるような男性総合職が中心の働き方が成功の道として成り立っていました。

しかし現在は、政府主導の働き方も進められているように、労働力人口の不足やグローバルでの競争力低下などが日本企業の課題となっています。少子化による労働力人口の減少、安価な人件費で優秀な外国人労働者を雇用できるグローバル企業との競争などを考えると、旧来の日本の働き方では通用しないことは明らかだからです。

また、VUCA(変動・不確実・複雑・曖昧の頭文字を取って近年のビジネス環境などを表した言葉)と呼ばれる時代において、人材の多様性もより一層重視されてきています。男性・総合職だけでなく、女性や外国人、様々な雇用形態やバックグラウンド、志向を持った人材が集まることで、イノベーションが起きやすくなると言われます。

ますます変化が激しくなるビジネス環境の中、多様かつ限られた人的資源を効果的に活用して利益を上げるために、いわゆる「適材適所」を徹底する人材ポートフォリオが必要になります。

中小規模の企業においても人材ポートフォリオの重要性は同じ

人材ポートフォリオについて、中小規模の企業ではあまり必要ないと思われる方もいらっしゃるかもしれません。中小企業では、人事マネジメントがいわゆる「KKD(経験・勘・度胸)」によってなされていて、それが成功しているようにも感じられがちだからです。

実際、人材ポートフォリオと聞いて次のようなイメージを持たれる中小企業の人事の方も多いのではないでしょうか?


《人材ポートフォリオに関する誤解》

  • 従業員については経歴やスキル、性格やプライベートまである程度知っているから、今さら大げさな分析は必要ない
  • きちんと設計・運用するには、専門のコンサルタントに委託したり、膨大なデータを活用しなければならない
  • 人材ポートフォリオはリソースに余裕のある大手企業のためのものである


しかし、実際はこの逆であるとも言えます。中小企業では資源も人材も大企業より少なく、よりその投資先を見極め、不要なコストを削減することが経営上で重要になります。

例えば「より活躍する人材」を採用するにしても、給与や福利厚生が充実した大企業とバッティングしてしまうと不利にならざるを得ません。自社に必要なのはどんな人材か、考えずに採用や人事を行っていれば、成果に対して人件費が高くなりすぎてしまい経営を圧迫します。

つまり、中小企業こそ、「適材適所」を徹底して全ての従業員が活躍できるように適切な人事マネジメントを行う必要があるのです。

高いコンサルティング料や膨大な時間をかけて設計することはできなくても、社内で現状の人材ポートフォリオを分析するだけでも、課題が見えておおよその進むべき方向が掴めるはずです。人事に無尽蔵にリソースを割くことはできないという企業こそ、一度、簡易的にでも自社の人材ポートフォリオを考えてみることをお勧めします。

人材ポートフォリオを実際に作成(分析・設計)する手順

それでは、実際にどのような手順で人材ポートフォリオを分析・設計すれば良いかをご紹介していきます。

詳細な設計や運用にあたっては専門のコンサルタントに依頼するケースも多いと思われますが、ここではまず簡易的に自社の理想と課題を把握できるよう、一般的かつ分かりやすいやり方で大枠の流れをお伝えします。

①自社に必要な人材をタイプごとに分類する

まず、人材を分類するための方法を考えます。ここで重要なのは、「どんな分類なら今すぐできるか」で考えるのではなく、有効に活用できる結果になるよう分類することです。

一般的には次のような分類方法がありますが、あくまで例ですので、自社の事業活動に「必要な」要素によって適宜アレンジすると良いでしょう。

業務の性質で分類する例:「個人・組織」、「創造・運用」の2軸・4象限

業務の性質によって「個人でする仕事」か「組織(チーム)でする仕事」か、「新しく創造する仕事(クリエイティブ)」か「出来上がったものを運用する仕事(ルーティン)」かという2軸・4象限に分類する方法は、最も一般的で汎用性の高いとされる分類方法です。

「個人」でする業務で「創造」的な内容であれば、「経営層や経営参謀」であったり、またはデザインなどの「クリエイティブ人材」といったイメージができると思います。ここにどのような人材を当てはめるかは事業内容などによって異なりますので、各社において“個人×創造”の切り口で、必要な人材はどんな風に定義できるかを考える必要があります。

仮に“個人×創造”に当てはめる人材タイプを「経営参謀」とする場合は、

  1. “組織×運用”=「定型業務職(オペレーション)」
  2. “組織×創造”=「経営幹部候補(マネジメント)」
  3. “個人×運用”=「専門職(エキスパート)」
  4. “個人×創造”=「経営参謀(オフィサー)」

という4タイプに定義することもできるでしょう。

雇用形態で分類する例:「総合職・専門職」、「常時雇用・臨時雇用」

どの雇用形態がどのくらい在籍している状態が最適かを人材ポートフォリオで考えることもできます。同じように2軸・4象限とするか、または表などの形にまとめても良いでしょう。

分類の仕方と各雇用形態・職種の目的については、各企業ごとに異なります。経営幹部候補としての総合職や、全国転勤によるキャリアアップが可能な人材としての総合職、エリア限定の総合職、マネジメントを行わない専門職(エキスパート)、現場の定型的な業務を行う常時雇用アルバイトや、季節性のある業務に就く臨時雇用アルバイト…などなど、さまざまな定義ができると思いますので、自社において強化したいところを鑑みて分類してください。


例えば、正社員の他に契約社員や派遣社員なども在籍するのであれば、どのくらいの割合で契約社員が正社員に登用できるのか、あるいは「5年ルール」などにより登用しなければならないと考えたときに何名まで契約社員を雇用できるのか、派遣社員が多い場合はそのマネジメントをする正社員の人材が足りているか、などを分析することができます。

②社内の人材をそれぞれのタイプに当てはめる(現状分析)

どのように分類するかを決めたら、実際に自社の人材がどこに分類されるかを当てはめていきます。

どうやって分類するかと言うと、職種や雇用形態など社員台帳のようなデータで管理されている項目であればExcelの関数などでもすぐに分類できますが、「能力・スキル」や「性格・適性」など定性的な項目による分類は少し難しくなります。

人事やマネージャーは従業員について正しく理解・評価ができていると思い込みがちですが、実際には人間の認知や記憶にも限界があり、ハロー効果と言われる思い込みなども働くため、一人一人の客観的な評価はかなり難しくなります。事実、働く人の6割以上は勤務先の人事評価制度に「不満がある」と答えています(アデコ「『人事評価制度』に関する意識調査」)。

よって、ヒトの主観や“勘”のみで人材のタイプを分類するのは、非常に危険です。

適性検査など客観的かつ信頼できるデータを元に分類する

能力や性格などの定性的な項目による分類の際におすすめなのが、適性検査による分類です。適性検査は採用試験に使われるほか、従業員の育成・配属など人事マネジメントにおいても活用が当たり前になりつつあります。

新卒採用でメジャーな「SPI3」や、測定項目数が豊富な「eF-1G」などの適性検査を従業員(全員、または特に活躍している人材とそうでない人材から相当人数)に受験してもらい、その結果を用いて客観的・科学的根拠でもって分類します。例えばSPI3では人材を4象限に、eF-1Gでは役割志向で8タイプに分類してくれるため、タイプごとの人材の偏りまたは不足を把握しやすくなります。

こうした客観的・科学的な分類は信頼性も高く、また従業員の納得感も得やすいでしょう。

③多すぎるタイプ/少なすぎるタイプがいるか見る(理想と課題)

タイプごとに人材を分類できたら、本来あるべき人数や構成比に対して多すぎる人材のタイプ、少なすぎる人材のタイプがあるかを観察します。

課題としては例えば、

定型業務を行うオペレーション人材に対して、管理監督するマネジメント人材が不足している(図1)

図1.定型業務を行うオペレーション人材に対して、管理監督するマネジメント人材が不足している



マネジメント人材の人数は多いが平均年齢が高く、10〜20年後にはマネジメント人材候補が不足しそうである(図2)

図2.マネジメント人材の人数は多いが平均年齢が高く、10〜20年後にはマネジメント人材候補が不足しそうである



総合職が多く、各事業・業務に精通したエキスパートの人数が少なすぎ(図3)

図3.総合職が多く、各事業・業務に精通したエキスパートの人数が少なすぎる

といった状況が見えてくるでしょう。

人材タイプの「本来あるべき」人数・構成比という考え方が非常に難しいところですが、これは人事において最も重要なポリシーでもあります(人材要件定義、人事ポリシーなどとも呼ばれます)。どのような人材が必要かを定義し、その人材を採用・育成し、成果を上げさせることこそが人事の最重要ミッションとも言えるからです。

もし、人材を分類した結果「どこが課題なのか分からない」「事業活動に必要な人材の要件が明確に定義できていない」という問題が発生した場合には、経営層も交えて今後の経営方針とそれに必要な「人的資源」について話し合うべきでしょう。

現状の人材ポートフォリオに加えて、「理想の」人材ポートフォリオを作るのも手

課題の把握のために現状の人材ポートフォリオを分析したら、次は「目標とする理想の人材ポートフォリオ」を設計してみるのもおすすめです。目標と現状を並べてみれば、どの人材タイプが多すぎる/少なすぎるか、一目でわかりやすくなります。

④多すぎるタイプを減らす/少なすぎるタイプを増やす方法を考える(打ち手)

人材ポートフォリオの分析(現状)・設計(目標)によって多すぎる人材タイプ・少なすぎる人材タイプが明らかにできたら、最後に「目標の人材ポートフォリオに近づけるための打ち手」を考えることができるようになります。

成果を上げる人材を増やす・成果を上げない人材を減らすための打ち手、つまり人事が行う施策の全般は基本的に下記の4つしかありません。

  • 採用・・・新卒採用、中途採用、アルバイト採用、派遣社員活用など
  • 退出・解雇・・・早期退職の推奨、役職定年制度など
  • 育成・・・研修、目標管理、人事評価など
  • 配置転換・・・部署異動、出向、転勤など

人事はこれらの施策をうまく使うことによって、各タイプの人材を増やしたり減らしたりする人事マネジメントをすることになります。

なお、「人材を減らす」というと解雇や自然退出のような過激な施策を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれませんが、日本の法律において解雇等は非常にハードルの高く、また従業員にとっても不安やキャリア上の瑕疵になりかねません。

「適材適所」になれば、現状では活躍していないように見える従業員も活躍できる可能性が十分にありますので、ここでは「『適材適所がなされていない人材』を減らす」とイメージしていただければと思います。

人材ポートフォリオ分析で見えた課題と打ち手の例

例えば先ほどの課題の例に当てはめれば、次のような打ち手も考えられると思います。

 

 

人事で最も重要なのは「採用における求める人材の要件定義」

人事に関する課題は一般的に、採用・退出(解雇)・育成・配置転換のいずれかの施策によって解決できます。しかし、最も行いやすく影響が大きいという両面から「採用」が最も重要な施策であり、人事の責任が大きい部分であると言えるでしょう。

自然退出・解雇による人員調整は、日本の企業においては労基法や文化の面からは非常に難しいとされます。

長らく終身雇用が前提となってきたため、社会全体のシステムもそれに合わせて築かれており、早期退職や転職にはリスクを感じる人がまだまだ多くいます。転職が一般的になってきたとはいえ、「転職を繰り返してキャリアアップしていく」という働き方をしている人はごく一部ではないでしょうか。

また、育成や配置転換による「個人の変化」を期待することもできますが、「臨界期」という言葉があるように、人間は大人になってからではなかなか変わることができません。まして数日間の研修プログラムで個人の行動が変わったり、劇的に成長するということは難しいのです。

採用は、自社に必要な人材を獲得することができれば、入社後の一定の成果が期待できます。新しい人材が入ってくることは周囲の既存社員への影響も大きく、組織の活性化にも

繋がります。逆に、採用の時点から人材の見極め(必要な人材の要件定義)に失敗してしまうと、長期にわたってネガティブな影響を及ぼしかねません。

労働者が守られ終身雇用文化の根強い日本では簡単に解雇することもできず、成果を上げていないのに「しがみつき続ける」人材となってしまう危険性もあります。年に数回程度の研修プログラムなどを受けさせても、大人はそう容易く変われません。

つまり、理想的な人材ポートフォリオを保つためには、採用の段階から「求める人材の要件定義」を明確に持っておくことが重要です。人材ポートフォリオを一度でも分析・設計してみれば、人事において「採用」が最も重要な施策であることを体感していただけるでしょう。

【セミナーレポート】人材の要件定義はなぜ必要?-社内での活用のために知っておきたいメリットとその方法-
【セミナーレポート】人材の要件定義はなぜ必要?-社内での活用のために知っておきたいメリットとその方法-
人材要件定義がなぜ必要かの第一歩から活用の仕方までを実際にお悩みを解決した企業様の事例を交えてお伝えしています。

終わりに

難しく語られがちな「人材ポートフォリオ」について、具体例も交えてわかりやすく解説してみました。お読みいただいて、「これなら自社の人材ポートフォリオを考えられそう!」と思っていただけたら幸いです。また、人事における採用の重要さも実感していただければと思います。

人材ポートフォリオの分析・設計について、専門的なノウハウや従業員の納得感を得るためにはコンサルタントの活用も選択肢となり得ますが、費用対効果を考えると中小規模の企業では難しいと思います。

この記事を参考に簡単に現状(課題)を分析してみて、どうしても自分たちだけでは解決できない問題が多そうな場合には、コンサルタントにも相談してみると良いかもしれません。想定される複雑な問題としては、給与体系・雇用形態・就業規則などの変更、人員の配置転換・採用・解雇、評価制度の設計などでしょう。

人事における複雑な課題は一朝一夕に解決できるものではありませんが、自社にどんな課題があるのかを一度俯瞰して客観的に整理するだけでも、日々の細かな施策や業務がぐっと有意義になっていくと思います。この機会に一度、人材ポートフォリオについて考えてみてはいかがでしょうか?

米田 彩香

米田 彩香

新卒で入社した前職の老舗中小企業にて人事・採用を5年間担当。紋切り型の就活スタイルに疑問を持ち、OfferBoxの理念に共感したため2019年3月に株式会社i-plug入社、インサイドセールスチームに所属。夢は子供が独立したあとに学生街で食堂を開くこと。