ハラスメントを事例で解説!パワハラ防止法にも対応

2020年は、国が企業にパワーハラスメント対策を義務付けた画期的な年となりました。しかし、突然、パワハラ防止対策の担当者になったら、こんな疑問をもつのではないでしょうか。

「パワハラ防止って何をすればよいのだろう」
「パワハラとかマタハラとか、ハラスメントの種類が多すぎる」
「どんな行為がハラスメントになるの?」

「自社でハラスメントはありえない」と思う役員や社長に、ハラスメントが企業経営に与えるダメージや、自社の問題点を洗い出す必要性を説明することから始めなければならない場合もあるでしょう。

パワハラ防止法が求めるパワハラ対策を構築するためには、ハラスメントについての正確な知識を備えなければなりません。

この記事ではハラスメントの定義や種類、具体的な事例、人材流出など企業経営の関連性、企業にとってダメージとなる裁判例について解説します。また、2020年より施行されたパワハラ防止法と改正男女雇用機会均等法の内容も紹介します。

これら知識を前提として、パワハラは絶対に許さないという会社の決意を全従業員に伝える施策を考える必要があります。パワハラ防止策を絵に描いた餅にせず実践的な内容とするためのコツも紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

ハラスメントとその事例

ハラスメントという言葉は知っていても、具体的にどのような行為を指すのか答えるのは難しいかもしれません。はじめに、ハラスメントの定義と種類を確認します。

ハラスメントとその種類

「ハラスメント」とは「他者に対する発言・行動等が本人の意図には関係なく、相手を不快にさせたり、尊厳を傷つけたり、不利益を与えたり、脅威を与えること」を言います。

引用)大阪医科大学|ハラスメント等防止委員会

ハラスメントの定義のポイントは、次の点です。

  • 本人の意図には関係ない
  • 相手を不快にさせたり、尊厳を傷つけたりする行為も当たる

行為者本人は「ふざけていただけ」と思ったとしても、相手を威圧するほどでないにしても、ハラスメントに当たる可能性があるということです。

ハラスメントにはさまざまな種類がありますが、はじめにパワーハラスメント(パワハラ)、セクシュアルハラスメント(セクハラ)、マタニティハラスメント(マタハラ)の定義を確認します。

それぞれのハラスメントの定義

まずパワハラの定義ですが、厚生労働省によると、パワハラは「職場における3つのパワハラの要素」を全て満たすものとされています。その3つの要素とは、「優越的な関係を背景とする言動」、「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」、「労働者の就業関係が害されるもの」です。

次に、セクハラですが「職場において行われる労働者の意に反する性的な言動により、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されたりすること」をいいます。

そして、マタハラは「職場において行われる上司・同僚からの言動により、妊娠・出産した女性労働者の就業環境が害されること」とされています。

具体的な事例や裁判例は後述しますが、従業員の行為がハラスメントに当たるか否かの判断は、パワハラ・セクハラ・マタハラの各要件に機械的に当てはめるだけでなく、行為の態様や頻度などを総合的に判断しなければなりません。

新しいハラスメント

パタハラ、ケアハラ、ソーハラという新しいハラスメントをご紹介します。

◇パタハラ(パタニティー・ハラスメント)◇
パタ二ティとは、男性の父性を表す言葉で、男性が育児参加を通じて自らの父性を発揮する権利や機会を、職場の上司や同僚などが侵害する言動をパタハラと呼びます。

◇ケアハラ(介護ハラスメント)◇
ケアハラとは仕事と介護の両立を阻む職場の上司・同僚の言動です。

◇ソーハラ(ソーシャルハラスメント)◇
近年注目されているのがソーハラです。ソーハラとは職場でSNSを通して行われる上司・同僚の迷惑行為のことで、他のハラスメントとちがい、現在はまだ明確な定義はありません。

上司がSNSを利用して従業員の私生活を管理したり、業務時間外に業務指示を行なったりするなどの行為が社会通念上認められない程度を超えるかどうかで、ソーハラに該当するか判断する必要があります。

ハラスメントで人材が逃げる

パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)が施行された背景として、パワハラが職場に与えるネガティブな影響や、職場でのいやがらせに関する相談の増加が挙げられます。

パワハラが行われている職場の従業員は、職場の雰囲気が悪くなると感じるだけでなく、約80%の人が「人材が流出してしまう」、70%近くの人が「職場の生産性が低下する」と危機感を抱いています。

人材の流出や生産性の低下は、企業の最優先課題の一つです。にもかかわらずパワハラが人材の定着や生産性向上を阻害する要因となっているのであれば、企業はパワハラ防止策を徹底的に講じる必要があるでしょう。

ハラスメントの代表例!パワハラの事例

ここではハラスメントの中でもパワハラの具体的な事例と裁判例を紹介します。

パワハラに当たる事例

パワハラと認められる具体的な行動には次の6つの類型あります。

  1. 身体的攻撃(殴る、蹴る、本や定規で頭を叩くなど)
  2. 精神的な攻撃(人格を否定する、同僚の前で過度に叱責する、度を超した長時間・複数回の叱責、複数の同僚に対して侮辱的な言葉を使用したメールの送信)
  3. 人間関係からの切り離し(1人だけ別室で仕事をさせられる、部署の会議に出席させないなど)
  4. 過大な要求(時間内に終わらせるのが客観的に不可能な仕事を押し付ける、上司の仕事を押し付けるなど)
  5. 過小な要求(業務と無関係の掃除をさせる、一切の業務指示をせず仕事をさせないなど)
  6. 個の侵害(プライベートにつき執拗に訪ねる、家族の悪口を言うなど)

注意しなければならないのは、相手がケガをするかどうかと、パワハラにおける身体的攻撃はちがうということです。書類や文具を投げつける行為であっても、身体的攻撃にあたります。

また「簡単な業務だけ与える」行為も注意しなければなりません。自主的な退職に誘導する意図のもと、役職がなくても行える業務を管理職に与える行為は、パワハラに該当します。

パワハラに当たらない事例

次のような行為は、パワハラと認められる6つの類型に当たりません。

  • 誤って相手にぶつかる行為(身体的攻撃にあたらない)
  • 強く注意する行為でも、マナーに欠ける言動や行動を何度注意しても改善しない場合の行為(精神的攻撃にあたらない)
  • 新規採用者の育成で短期集中研修を個室で行った(人間関係からの切り離しに当たらない)
  • 育成のため少し高いレベルの業務をまかせる(過大な要求に当たらない)
  • 労働者の能力に応じ業務内容や量を軽減(過小な要求に当たらない)
  • 労働者への配慮を目的に家族の状況を聞き取る行為(個の侵害に当たらない)

ブラック企業のレッテル パワハラ裁判例

従業員が上司や同僚のパワハラにつき、企業も使用者責任を負うべきであると訴えを起こして認められると、企業は多額の賠償義務を負うだけでなく、社会的信頼を失いかねません。

パワハラ防止策を講じるために裁判例を参考にする企業も多くなっています。企業のパワハラ責任に関する裁判例の中から、パワハラが認められた例と認められなかった例を紹介します。

パワハラが認められた例 最判平成8年2月23日判決

◇争点◇

就業規則に反した鉄道会社の職員(現場労働者)が、就業規則の1字1句の書き写しを命じられ、その違法性が争われました。

◇事実の経過◇

就業規則を書き写している際、職員が手をやすめると、上司が怒鳴ったり机を叩いたり蹴ったりしました。

職員が就業規則の読み上げを命じられた際に水を所望しても認められず、帰宅後腹痛を覚えました。職員は翌日の有給休暇を希望したが認められず就業規則書き写し業務を行なったのですが、この日も2度の腹痛が起き、従業員は病院に行きたい旨を訴えたにもかかわわらず認められませんでした。

その後、職員から胃潰瘍の病歴申告を受けた上司がようやく通院を認めましたが、職員は1週間ほど入院してしまいました。

◇判決のポイント◇

この事案における訓練の態様につき問題があると判決が指摘している点がポイントです。

本件事案における訓練の態様は、合理性がない、肉体的・精神的苦痛を伴う、心理的圧迫感や拘束感を与える、職員の人格を少なからず傷つけ健康状態に対する配慮に欠けるものとされました。

◇結果◇

本件の就業規則書き写し命令は、いやがらせ目的で行われ、また具体的態様が不当で、職員の人格権を侵害する教育訓練命令とされ、上司の裁量権を逸脱した違法なものであるとされました。判決は、企業および上司に対して、連帯して損害賠償および慰謝料支払いを命じています。

◇本判決の教訓◇

本件を教訓にハラスメント対応担当者として考えなければならないのは、本件のようないやがらせを安易に行える職場全体の管理体制および企業風土についてです。後述するチェックリストに従い、自社のパワハラ度を確認するきっかけとして、本事案を参考にしてください。

パワハラが認められなかった例 静岡地裁平成26年7月9日判決

これは、上司の行為がパワハラとは認められなかった事案です。

◇事案と判決の概要◇

デイサービスセンターを複数経営する社会福祉法人の理事が職員に対し、利用者獲得のためのチラシ配布や施策の立案などを過度に求めたのではないかと争われました。

判決では理事の指示および叱責は行き過ぎた面はあったにせよ、職務遂行目的かつ不当ではない行為と判断されました。理事の行為はパワハラに当たらないとされたのです。

◇本判決の教訓◇

理事の行為がたとえ正当な職務遂行目的であったとしても、一般的に労働者が耐えられる限度を超える指示や叱責の場合、パワハラに当たる可能性があります。

また、理事は職員の個性や健康状況等を把握し、パワハラと取られかねない言動を避けるべきでしょう。

なお、職員は過重な業務により精神疾患を発症し、労災が認められています。上司の業務指示が適切であれば、職員の罹患や訴訟に至ることはありませんでした。

まったなし!パワハラ防止法対応

2020年6月にパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)、改正男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法が施行され、企業のパワハラ防止義務の明文化、セクハラ・マタハラ・パタハラ・ケアハラなどの防止対策強化がはかられました。

企業のパワハラ防止義務

厚生労働省が定義してきたパワーハラスメント(パワハラ)につき、パワハラ防止法で明文化されました。本法の改正が画期的なのは、パワハラの定義を法律にはっきりと記載したことだけではありません。

従来、パワハラ防止対策への取り組みは企業の社会的責務とされているだけで義務ではありませんでした。しかし、このパワハラ防止法は、企業にパワハラ防止措置を講じることを義務付けています。

なお、一定規模以下の企業については、パワハラ防止措置の構築義務は、2022年4月1日から適用されます。

厚生労働省 ハラスメントパンフ

パワハラ防止法で義務付けられている主な措置は、事業主の方針の明確化及びその周知・啓発などの施策です。これら施策を講じる義務に反した場合でも罰則はありませんが、企業名を公表されるという不利益があります。

セクハラもあわせて防止

男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法では、セクハラやマタハラ、ケアハラにつき事業主の防止措置義務を定めています。今回の改正により、セクハラ、マタハラ、ケアハラについて事業主に相談したこと等を理由とする不利益取扱いが禁止されました。

企業が構築する防止措置により設置された相談窓口などに相談した従業員が、業務上の不利益な扱いを受けるのを防ぐための改正です。

事業主の方針の明確化及びその周知・啓発

企業にとって、ハラスメントは起こらないに越したことはありません。従業員によるハラスメントを予防するためには、パワハラ・セクハラ・ケアハラなどにつき、以下のことを明確化し、管理監督者をふくむ従業員すべてに周知徹底する必要があります。

  • ハラスメントの内容
  • ハラスメントを行ってはならない旨の明確化された方針
  • ハラスメントの行為者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容の就業規則等(文書による)

なお、妊娠・出産等および育児休業等については、制度を利用できることも周知徹底の対象とされています。

ハラスメント対策3選

最後に、ハラスメント予防の具体的な取り組み例や、企業が簡単に取り入れられるコツを解説します。

ハラスメント対策①自社のハラスメント度をチェック

企業が本気でハラスメント対策に乗り出すためにも、自社のハラスメント度をチェックすることをおすすめします。

職場環境チェックリスト

  • 朝夕の出退社のとき、挨拶をする人がほとんどいない。
  • トップや管理職は、自分の職場にはパワハラは存在しないと考えている。
  • 人は厳しく指導することで育つという意識が強い職場だ。
  • 今の職場には失敗やミスが許されない雰囲気がある。
  • 業務上のノルマが厳しく求められ、目標が達成できなかった時のペナルティが大きい。
  • 上司に対して、意見や反論は言えない雰囲気だ。
  • 職場の誰かが困っていても、助け合える雰囲気ではない。
  • 職場内での問題について、職場内で話し合って解決しようと雰囲気がない。
  • 正社員やパート、派遣社員等、様々な立場の人が一緒に働いているが、上下関係が絶対的で、立場を意識した発言が散見される。
  • 人の陰口や噂を耳にすることが多い。

厚生労働省

3項目以上に該当する職場は要注意です。とくにトップの認識が低い企業、ミスを許さない風土、話しづらくぎすぎすしている雰囲気は、パワハラが起きやすい職場の特徴の1つです。

ハラスメント対策②研修やアンケート

ハラスメント内容やハラスメントを禁ずる旨の方針などにつき、具体的にどのような方法で周知・啓発すればよいでしょうか。従業員への周知は、社内報およびパンフレットに記載し配布したり、社内ホームページに掲載したりする方法が効果的です。研修、講習等の実施により従業員の啓発をはかることもできます。

研修・講習等の終了時には、従業員のハラスメントに対する意識や、まわりでハラスメントが行われていないかなど、アンケートを実施することも、従業員の現状を知るために重要です。

ハラスメント対策③トップメッセージと社内掲示

ハラスメント対策の研修や周知活動に加えて、トップ宣言が効果的です。企業トップが本気でパワハラを根絶する気概がなければ、企業の体質そのものを変えることはできません。

トップメッセージは方針やガイドラインなどが整っていない状況でもかまいません。「パワハラは従業員の尊厳を傷つけ職場環境の悪化を招く行為であり、断じて許すことはできない」など、トップが早期にメッセージを発信することが大切です。

そして、トップメッセージに沿った内容の啓発ポスターを社内の目立つ場所に貼っておくと効果的です。社内報はすぐ捨てられてしまうかもしれません。

人事部からのメールやトップのビデオメッセージもしばらくしたら見なくなってしまいます。原始的な方法ですが、会社全体でハラスメント防止に取り組む雰囲気を作るのに効果的なのが社内ポスターの掲示なのです。

企業の本気度が問われるハラスメント防止対策

ハラスメントとは何か、ハラスメントの一種であるパワハラやマタハラなどの定義、具体的行為、裁判例などについて見てきました。

そのなかで、とくに念頭におかなければならないのは、ハラスメントは従業員の士気低下や疾患、それに伴う離職、企業との紛争に至るケースがあるということです。今までハラスメントにする明確な危機意識を持っていなかったのであれば、ハラスメントは企業の損失だということをしっかりと理解し、リスク管理の視点で徹底的に防止しなければなりません。

パワハラ防止法は、厚生労働省が取り組んできたハラスメントに対する施策の集大成です。これを機に徹底的にハラスメント防止に取り組み、企業の持続・発展につなげていきましょう。

人事ZINE 編集部

人事ZINE 編集部