人を採用するのに、企業は大きな予算を組みます。正社員が定年まで勤めるとなると、かかるお金も膨大です。自社の課題に合う人材を採用することは企業の大きなミッションですが、その「採用」の可否を決定する判断は厳密に、慎重にされなければなりません。
その手続き的な側面で大きく機能するのが「稟議」というものになります。この記事では以下のようなことを考察していきます。
- 採用の業務で稟議書が必要なケースは?
- 何故採用に稟議が必要?
- 採用稟議書の共通のフォーマットは?
- 中小企業やベンチャーでも採用稟議書は必要?
- 上司や他部署のキーマンに根回しして説得する秘訣は?
- 早く稟議が回る工夫は?
- 採用を成功させる稟議を作るのに必要なことは?
今回は、「採用稟議」の以上のような疑問について、採用業務を経験されていた網野さんにお答えいただきます。

株式会社i-plug
網野 紗弓
新卒で、教育関連の企業に採用担当として勤務。
その後データ分析専門企業での人事担当を経て、2020年3月株式会社i-plugに入社。
現在は、総務チームにて法務関連業務及び、全社の業務効率向上のための施策について幅広く担当。
目次
採用稟議書の必要性・メリット・基本フォーマットをおさらい
人事ZINE編集部
ーー網野さん、今回は「採用稟議」というテーマです。どうぞよろしくお願いいたします。はじめに、網野さんは採用業務で稟議を回した経験はありますか?
網野さん
はい。採用業務の中で稟議書を回した経験は持っています。わりと大きな規模の会社では、採用業務に関して稟議書を回す会社さんは多いかと思います。
ーー採用の業務で稟議書が必要になるケースはどのようなケースでしょうか?
網野さん
社内規定にもよるところが多いですね。一般的に、
- 採用予算の金額(ナビサイト・紹介など予算が一定の金額以上かかるものは稟議)
- 会社のコア人材の採用時(予定年収の金額)
がベーシックな基準になってくるのではないでしょうか。
- ナビなどの採用広告媒体で○○円以上の予算のとき
- 人材紹介の紹介料が○○円以上になるとき
- コア人材の採用で全社のコンセンサスが取りたいとき
など、この基準の中で一定のラインを決めてそこを越えたら稟議を回す、などルール決めをされている会社さんが多いですね。
ーー何故採用に稟議書が必要なのでしょうか?
網野さん
稟議書を回す企業としての必要性・メリットは以下が考えられます。
- 採用プロセスを文書化
- 全社共有事項を整理することで人事部署内での共通認識ができ、今後の採用施策に活用できる
- ペルソナや予算感の全社認識が促進される
というところが大きいですね。
中小企業やベンチャー企業で、「採用理由・採用方針の共有」や「採用プロセスの振り返り」が稟議無しで全社的に出来ているならば、稟議は不要です。
しかし、そのような規模の会社でも採用稟議書を回すことは将来的にはメリットが高いです。採用過程や施策を書面化しておくことで、今後会社の規模が大きくなった時に、上記の3つの必要性・メリットが感じられ、「採用施策の共通化」というところにスムーズに移行できます。
ーー稟議書のフォーマットはどのようなものが主流でしょうか?
網野さん
稟議書の基本的なフォーマットは以下になります。
- 費用
- 採用の目的(現状の課題は?)
- 採用の理由(なぜこの手段なのか?)
- 費用対効果(どんな効果、結果が期待できるのか?)
- 採用活動での最終評価
採用活動で最もシビアに企業活動を逼迫するのは「費用」ですので、費用の記入は正確に行います。
また、採用をするに至った目的、採用活動で採用を決定した理由の記入も大切です。どのようなプロセスで採用の判断をしたのか、社内共有することで今後の採用活動のブラッシュアップにもつながります。また、採用活動内の最終評価も、配属や入社後研修の重要な情報になりますので、記入します。
採用稟議の社内同意をとるために大切な「前提情報」の共有・出し方
人事ZINE編集部
ーー採用稟議書の必要性・メリット・フォーマットなど基本的なことが理解できました。採用稟議書を社内に回すうえで、上司や他部署、経営陣にOKをもらうためには何に気をつければいいでしょうか?
網野さん
先程の稟議書のフォーマットのお話とも重なりますが、必要な事項だけ書いている稟議書を決裁者がいきなり見せられたところで、なかなか意思決定、というのは難しいところがあります。なので、
- 採用の理由・目的・評価・予算などを決めるに至った前提情報の共有
- 落ち着いて意思決定をしていただくための決裁者のスケジュール管理
を行うことが、稟議を通す確率を上げるためには有効になります。
「稟議の提案の前提情報」を事前に、または稟議書に併記で伝えることで、決裁者の意思決定をスムーズにしていきます。
また、スケジュール管理も重要です。Googleカレンダーなどのカレンダー共有を利用し、決裁者のスケジュールを「採用稟議書の検討・決裁」として予定として入れてしまえば、スルーされて「決裁が遅れる」という事態を防げます。
ーー前提情報の共有は本当に大切ですよね。「提案の前提情報」にどのような情報を使って決裁者の説得をしていましたか?
網野さん やはり、説得には客観的なデータが必要なんですよね。となると、求人媒体会社や人材紹介会社など取引のある会社に求人や人材市場の市況感のデータをいただいたりして、説得力をつけていきました。
「この職種は技術要件が高いので、今採用するのはこれだけ難しいんですよ」
「この競合他社は採用を強化しているので、市場に今人材が少ないです」
というメッセージを、データとともに出すことができ、説得力が高まり、決裁が成功する確率も上がります。
採用稟議書を通すためには地味な地上戦も重要:「社内根回し」の秘訣
人事ZINE編集部
ーー決裁者が意思決定をするための「前提情報」の重要性は大変よく理解できました。それでは「内容そのもの」というよりも「やり方やマナー」での説得のうまいやり方、根回しの秘訣はありますか?
網野さん
そうですね、「前提情報」の共有も大切ですが、おっしゃるように、社内での振る舞いでの「根回し」も地味ですが非常に大切になりますね。例えば、
- 事前に採用の稟議が回ることを話しておく
- 前提になる採用の進捗状況を日常的に話しておき、協力してもらいやすい状況を作っておく
- 全社会議やチャットなど、全社の目にふれるところで常に採用活動の進捗をオープンに開示しておく
以上の3つの「おく」は、地味ですが稟議を回すときに非常に効いてきます。決裁者も人間です。いきなり何も知らない提案事項が送られてくると「?」となってしまう方も多いので、地道な根回し活動は大切なんです。
それはどの職種でも、どの業種でも、これからオンラインでのコミュニケーションが増えても、「対人の根回し」というものは共通で重要なことは変わらないと思います。
最後に:稟議を通し、採用を成功させるために必要なのは「事前準備」と「こまめな社内共有」
今回は、採用業務を経験されていた網野さんに、「採用稟議」についてお話をいただきました。
採用稟議は、
- 採用プロセスを文書化して社内にオープン化、全社共有事項を整理することで人事部署内での共通認識ができ、ペルソナや予算感の全社認識が促進される
- 採用の過程・結果を記録でき、施策を振り返られる
- 採用活動のブラッシュアップにつながる
という役割があることを確認できました。
このような採用稟議の良い機能を十分に出していくためには、
- 情報を漏れなく記載すること
が重要です。また、ただ最低限の事項を書いて漫然と稟議書を回すのではなく、
- 稟議提案に至るための前提情報(データ)を稟議書に記入する
- 稟議書を出す内容(採用活動の進捗)を事前に社内共有や根回ししておく
- 社内稟議の仕組みを熟知しておく
- 稟議決裁者の決裁スケジュールをおさえておく
このようなポイントをおさえて、社内の各部署とのコミュニケーションを日頃からとり、採用稟議が回るスピードを上げ、決裁者のOKをとる確率を上げて、スムーズな採用業務を行っていきましょう。